※写真はイメージです (Getty Images)
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(週刊朝日2019年11月22日号より)
(週刊朝日2019年11月22日号より)

 元タレントの田代まさし容疑者(63)が6日、覚醒剤取締法違反(所持)の疑いで、またも警察に逮捕された。依存症は意志の弱い人が陥る病気、と思っていないだろうか。そこに落とし穴がある。

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 専業主婦だった70代の女性。数年前に夫に先立たれてから、あることがやめられなくなった。子どもは巣立って遠方にいるため、一人暮らし。寂しさと心にぽっかりと開いた何かを埋めるために、いつも通うスーパーで食品に手を伸ばし、かばんに入れた──。

 万引き依存症に陥る典型的なケースだ。

 大森榎本クリニック(東京都大田区)で依存症の臨床に長年携わる精神保健福祉部長の斉藤章佳さんは言う。

「今、『万引き依存症』の患者が増えてきています。全体の7割が女性で、そのうち6割から7割が65歳以上です」

 そのほとんどが「おなかがすいたから」「貧乏だから」とやむにやまれず万引きに手を染めたのではない。

「万引きが発覚すると、家族に連絡がいきますが、驚かれることがほとんど。まさかうちの母が、と。ある程度、世帯収入があって、外見も整い、服装もしっかりしていて見た目ではわからない。もともとまじめで意志が強く、他者配慮的な人が多い。そういう人ほど陥りやすいと言えます」

 彼女たちに共通することがある。

「喪失体験と孤独感。この二つにストレスも相まって、万引き依存症になってしまうケースがよく見られます。特に多いのが、配偶者との死別。ほかにも、高齢となればいろいろな喪失体験があります」

 女性に限らず、定年退職することによる「社会的役割の喪失」や、体の衰えによって目が見えづらくなる、耳が聞こえにくくなる、記憶力が低下する、足腰が弱くなるといった「身体的機能の喪失」、配偶者や友人が亡くなっていく「コミュニティーの中での孤立」の体験がある。男性の場合は「性機能の喪失」も。心に穴が開けば、埋めるためのものが必要になる。そして、それが依存症に陥るきっかけとなる。

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