これに対し、家族信託による財産管理は、本人が元気なうちに、信託契約を取り決めれば、家族だけで財産管理を行っていける。契約で決めた方針に反しない限り、受託者は、老朽化した賃貸物件の建て替えや借り入れによるアパートの建設など、収益不動産を柔軟に管理・活用できる。また、遺言よりも柔軟な財産承継ができるほか、オーダーメイドな生前対策も可能になるなどのメリットがある。

 ただ、専門家への報酬など家族信託に係る費用は、遺言書作成や成年後見制度の初期費用と比べると高めになる。それでも、成年後見制度のように月額報酬の支払いが続くわけではないので、専門家に依頼するケースが多いという。

 家族信託は受託者に権限が集中するため、家族に不協和音を生むリスクはある。受託者になれなかったとしても相続財産を受け取る権利がなくなるわけではないが、財産の移動や処分に関する権限は受託者にあり、不公平感が相続をめぐるトラブルに発展する可能性は否定できない。

 元木代表は、こう話す。

「家族信託はメリットが多いが、認知症と診断されると利用することが難しい。元気なうちに親子で話し合っておくことが大事だ」

 認知症になった人が、その後の生活の質を確保するには、安心して出かけられる街で暮らせることも重要になる。

 神戸市は、認知症の人への支援として、認知症の早期受診を推進するための診断助成制度のほか、認知症の人が外出した時などに事故を起こした場合の事故救済制度を創設した。

 神戸市は、全国に先駆けたこうした取り組みを「神戸モデル」と名付け、認知症になっても安心して暮らせる街づくりを目指す。

「神戸モデル」の事業の2本柱が今年に入って立ち上がった。

 認知症を早期に発見し、予防につなげる「認知症診断助成制度」が今年1月28日にスタート。受診する年度内に65歳以上になる市民を対象に、2段階の検査を行う。最初は認知症の疑いの有無を診断し、疑いがあった場合は、次に認知症疾患医療センターなどで精密検査をする。そこで認知症かどうかと、軽度認知障害も含めて病名の診断を行う。

 さらに、認知症の人が外出した時の事故などのトラブルを補償する認知症事故救済制度が4月から運用を開始。認知症の人が事故を起こした場合に賠償責任の有無を問わず被害者への給付を行う「見舞金(給付金)制度」と、賠償責任がある場合、認知症の人やその家族の賠償資力の確保として「賠償責任保険制度」を創設した。

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