神戸モデルの運営に係る年約3億円の費用は、市民税の上乗せ(1人年間400円)でまかなう。

 神戸市は6月、制度開始後初めての見舞金の支給事例を公表した。

 同市によると、トラブルの内容は、認知症の人が他人の所有する自転車を自宅へ持ち帰ってしまい、その自転車の一部に損傷を与えたケース。財物損壊給付金として、1万5932円の見舞金が支払われた。

 このほかにも、レストランで食事しているとき、認知症の人が失禁してしまい、椅子や床が汚れたケースでクリーニングのための休業損害や取り換え費用などが補償される方向だという。

 夫婦が共に認知症のケースで、夫が自宅で転倒し、窓ガラスを割るというトラブルがあった。家の名義が妻で、被害者救済を目的にしているので本人の資産は対象外になる可能性もあったが、判定の結果、補償される方向へ手続きが進んだ。

 07年に発生した鉄道事故の裁判で、線路に立ち入った認知症の人が列車にはねられたことで、鉄道会社側が振り替え輸送費などの損害賠償を家族に請求したが、最高裁はその請求を退けた。

「神戸モデル」に保険商品で参画している三井住友海上火災保険公務開発部開発室課長の山巻大輔氏は、

「認知症事故救済制度の目的は、被害者の救済にある」

 と話す。

 被害者が鉄道会社のような大企業の場合はまだしも、個人や中小事業者が被害に遭い、損害賠償されない場合は深刻な事態になる恐れもある。

 山巻氏は、こう語る。

「認知症の方との共生を考えた場合、被害者救済の仕組みがあることで、認知症の人本人やその家族の負担を少しでも和らげ、認知症の方が外出を楽しむことの後押しになれば」

 補償の具体例が出始めた「神戸モデル」を参考に、他の自治体でも同様の制度を検討する動きが出ているという。

週刊朝日  2019年10月11日号