北朝鮮潜入の工作員は巧妙に…映画原案者が語る南北の“裏の裏”

2019/07/26 08:00

 パク氏は、韓国の工作員として初めて故金正日総書記と会うことに成功。映画では、接見前に“自白剤”を飲まされ、偽りの身元を剥がされそうになるが、実際には、本質を暴くような尋問、例えば、朝鮮戦争は北侵か南侵か(北朝鮮侵攻が先か韓国侵攻が先か)といった「質問攻め」に遭ったという。

「パクさんは、金正日について『印象は柔らかかった。だから自分とは違う毒気のある正恩を後継者にしたのだろう』と言っていました。パクさんは、北朝鮮に滞在中も録音をしていて、平壌から中国に戻る飛行機内で国境を越えると暗記したことを一気にノートに書き記したそうです」

 映画に出てくるキーワード「北風工作」についても聞いた。北風とは、北朝鮮の武力行為が韓国の選挙に影響を及ぼすことだ。

「97年12月の大統領選挙で、優勢だった進歩派の金大中氏を落選させようと保守派が安企部と手を組んで北朝鮮に武力行為を要請したのです。前年、北風は総選挙で劣勢だった与党に勝利をもたらしていた。二匹目のドジョウを狙ったのです。意外ですが、北朝鮮は金大中が大統領になることを嫌がっていたそうです。相手にするには老練で、朴正熙元大統領の政敵(71年の大統領選で金大中は朴正熙に肉薄)として、北朝鮮の住民に人気があったのも理由だそうです」

 結局は、金大中大統領が誕生し、政権交代が実現した。北風工作は安企部の報告書で明らかになり、パク氏の身元も暴露。安企部を退職した同氏は2010年に国家保安法違反で懲役6年の刑を受けた。一方、リ氏は今も健在で、中国で外貨稼ぎを続けているという。

「工作は10年、20年と長く行うこともある。今もどこかで壮絶な人生を歩む黒金星がいるということです」

(ノンフィクションライター・菅野朋子)

週刊朝日  2019年8月2日号

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