「自筆証書遺言の怖さは、形式の不備で無効になる恐れがあるだけでなく、自己流で書いて正確な思いが相続人に伝わらないことです。専門家のアドバイスを受けて書けば、間違いなくつくることができます」(税理士の高原誠さん)

 親が元気なうちに書くことが望ましいが、子が「そろそろ書いて」とストレートに言うと、「財産をねらっているのか」と不信を招く。相続の話はお金が絡むだけに、親と子の間でも兄弟姉妹の間でも一切しないという家庭も多い。ただ、葬儀後に親族が集まったときに突然切り出しても、話がまとまりにくい。

 高原さんは「親にとって自分ごとである介護の話から入っていくと、うまくいきます。足腰が弱くなってきたらどうしたいのか、どんな介護を受けたいのかなど、相続よりも先に、今後の人生や介護への思いを聞くことです」と助言する。

 親が自宅を売って老人ホームに移り住むと考えていれば、親も幸せに暮らせ、子も自宅処分を巡るもめ事を避けられる。最期まで自宅に住むならば、兄弟姉妹のだれが中心になって介護を支えるかを考える。「近所に住む姉中心に」と決まれば、姉が多めに財産を受け取っても、ほかの遺族は納得しやすい。

「相続人同士が疑心暗鬼にならないように、こっそりと遺言を書くのは避けた方がよさそうです。公平に分割し、遺留分にも配慮するのが無難ですが、公平にできないときは付言事項で理由を具体的に書くとよいでしょう」(高原さん)

 争いを防ぐ手立ての一方で、火種にもなる遺言。両刃の剣の使い方を知り、遺族が幸せになる言葉を残したい。(村田くみ)

週刊朝日  2019年3月8日号より抜粋