市場調査を行う富士経済によると、2018年の顔認証システムの市場規模はおよそ15億円。3年後の21年には1.6倍の25億円近くに成長すると予測する。

 普及のきっかけとなりそうなのが東京五輪だ。大会関係者の本人確認のために、五輪開催中に大規模な顔認証システムの採用が決まった。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会はこう話す。

「関係者へのなりすまし入場などを防ぐために、選手、運営スタッフといった大会関係者約30万人の入場管理に使います。システムが導入されるのは競技会場、選手村、国際メディアセンター、メインプレスセンター、オリンピックファミリーホテルで、数百台規模になると予想しています」

 テロリストにとって世界中の注目が集まる五輪は絶好の標的になる。そのため組織委員会は、政府機関などと連携を図る一方、セキュリティー予算として1千億円を計上。そのなかに顔認証システムも含まれている。実際、顔認証システムは東京五輪ではどんな形で運用されるのか。

 システムを納入するNECの東京オリンピック・パラリンピック推進本部、山際昌宏氏(パブリックセーフティ&ネットワーク事業推進グループ部長)は、こう説明する。

「関係者エリアの入り口にカメラ付きの認証装置を置き、入場する際にはあらかじめ顔画像などの本人情報が登録されたIDカードを装置の読み取り機にタッチします。認証ゲートに向かって歩いてくる途中、カメラが自動でその人の顔を何ショットか撮り、ベストショットを齣切りにします。その画像とIDカードの登録データとを照合し、登録のものと同じ人物かどうかを判別します」

 認証の基本的な仕組みは、人の目の長さや目じりの幅、鼻や口の位置など顔の特徴点を数百点にわたってデータ化し、それを瞬時に登録画像と照合する。認識率は99%以上。顔が日焼けしたり、ペインティングをしていても問題なく判別できる。完全に一致しない部分がある場合は、AI(人工知能)を使って判断するという。 30万人の登録データとの照合なら、認証にかかる時間はわずか0.056秒。瞬きの速度が0.1秒から0.3秒と言われるから、その半分以下の速さだ。ゲートの通過時間はおよそ2秒に1人。「駅の改札を歩いて通過するぐらいの速度で人が流れるよう」(山際氏)開発中だという。

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