顔認証システムを入れることで省人化は進む。だが、弱点もある。周囲が暗かったり、マスクをかけたりして顔の一部が隠れると、それだけ認識率が落ちるのだ。そのため、認証ゲートではマスクやサングラスを外してもらうようにする予定だ。 また、99%の認識率では計算上は100人に1人がエラーになる。「実証実験では間違った人を通したことはない」(同)というが、エラーが出た際にはゲートに待機する警備員が確認を行うことになる。

 NECの顔認証システムは、昨年インドネシアで開かれたアジア競技大会で現地警察がブラックリストに載った人物の顔照合用に使用したほか、米国ロサンゼルス郡の保安局が犯罪捜査システムに採用。また、セブン-イレブンが都内にオープンした無人型の実験店舗の決済システムにも使われている。

 一方、顔認証システムが広がることで懸念されるのは、プライバシーの侵害だ。膨大な防犯カメラの画像から個人の識別が可能になると、乱用される恐れも出てくる。

 全国の丸善ジュンク堂書店では14年から顔認証システムを導入し、過去に万引きをしたり、不審な動きを繰り返したりした人物をデータベースに登録。入店した人がデータベースと一致すると、巡回する警備員のスマートフォンに顔写真が送られて警戒するようにしている。

 この取り組みには、「素晴らしい」と称賛する声がある一方、入店者全員の顔画像を照合していることから「気持ち悪い」などの意見も出た。また、英国では昨年、警察が顔認証システムの実証実験をしたところ、2300人を犯罪者の可能性があると誤認識した。さらに米国の人権団体がアマゾンの顔認証技術を使って犯罪者と連邦議員を比べたところ、28人の議員が逮捕歴のある人物と似ているとの結果が出てしまった。

 たとえシステムのミスでも、一度犯罪者と認定されると、本人の知らないところで常に監視され続ける可能性も捨てきれない。顔認証システムを使用するうえでの法整備が行われていないことから、これらの危険性を防ぐ手立てもないのが現状だ。

 こうしたことから日本弁護士連合会は16年に、「顔認証システムに対する法的規制に関する意見書」をまとめ、警察庁長官などに提出している。

 個人情報と防犯カメラ画像の扱いに詳しい小林正啓弁護士はこう警鐘を鳴らす。

「顔認証システムが防犯に役立つなら活用すべきです。しかし、そこから離れて個人情報が侵害されることがあってはならない。しっかりした目的だけに使うルール作りをするために、まずは議論を進めるべきです」

 便利なテクノロジーだけに、プライバシーを侵害しないよう防犯に役立てるバランスが必要だ。

週刊朝日  2019年3月8日号