ただし、歯周病の人が矯正治療を受けるにあたっては、いくつか注意点があります。

 まず、先にしっかりと歯周病の治療を終えておくということ。また、歯周病の定期的なメインテナンスは矯正治療中も継続すること。矯正治療はブラケットやワイヤなどの矯正器具をつけたまま歯みがきをしなければならないため、歯に汚れがたまりやすいのです。

 もちろん、矯正歯科においては、定期的にクリーニングを行うようになっていますが、歯周病の患者さんの場合、ポケットの中の汚れまでを丁寧に掃除する必要があります。

■矯正治療は矯正専門の歯科医師に

 なお、矯正治療は歯周病を治療する歯科医師でなく、矯正治療の専門家が行います。歯周病の主治医が提携している矯正治療医に紹介状を書き、そこで受けてもらうのが一般的です。そして、歯周病の定期検診やメインテナンスの際はこちらに通ってもらっています。

 私のクリニックでは3人の矯正歯科専門医と提携しています。いずれの歯科医師も専門技術のスキルがあることに加え、歯周病の知識を持っており、安心して患者さんを紹介できます。

 矯正治療のスキルは非常に重要です。健康な人の矯正治療にも通じることですが、見た目のきれいさだけを重視して治療をするのは非常に危険です。

 例えば、歯のかみ合わせにとって重要視されているものの一つに「犬歯(けんし)誘導」があります。健康なかみ合わせでは上下にかんだ時、顎を前後、左右に動かしたときに必ず奥歯に隙間ができます。これは犬歯が軸となって全体の歯が動くようになっているためで、その結果、奥歯に過度に力がかからないようになります。

 例えば犬歯が隣り合う歯よりも前に出てしまっているのが八重歯です。八重歯があると犬歯がかみ合わないため、犬歯誘導ができず、その奥の臼歯に力がかかりすぎてしまいます。だからこそ、矯正治療で歯の位置を正常に戻すことが大事なのです。

 見た目だけでなく、こうした歯の健康を考えて治療をするのが本来の矯正治療です。しかし、患者さんの口の中を見ると、歯はきれいに並んでいるのに、犬歯の位置が適切な位置に並んでいない場合がたまにあるのです。

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矯正治療の歯科医師に求められる知識