この、文字通りのドンチャン騒ぎと原稿の締め切りが重なると悲劇だ。ただでさえイラチな大センセイの神経はバーベキューの着火剤並みに一触即発の状態となり、しかも、さらに、その上、大センセイは天下のクレーマーなのだ!

 先日、ついに我慢の限界を超えて、某Jリーグチームの事務所に電話を入れた。

「うるさいんですけど」

「えっ、何がでしょうか?」

「応援の音に決まってるでしょう。すぐ近くに住宅があるところで、この音はないと思いますよ」

「あのー、そういうお電話いただいたの、お客様が初めてですけど……」

 なんと、海老天千本一気揚げに対して文句を言ってきた人はいないというのだ。

「個人があんな音出してたら、絶対に通報されますよ」

「はぁ……」

 大センセイ、自分でこう言いながらハタと気づいたんである。そう、個人が出していたら確実に通報レベルの音量なのに、なぜか、大集団の発する大騒音に対して人間は寛容なのだ。

 マンションの隣の部屋から漏れ聞こえてくるピアノの音や赤ん坊の泣き声は許せないのに、サッカーや野球の応援団が出す大音量は許せてしまう。

「いますぐに、応援をやめさせてください」

「いや、そんなことおっしゃられてもねぇ……」

 相手の男は笑っていた。たぶん、オカシイヒトだと思われたのだろう。

「いますぐ、や、め、ろ!」

 大センセイ、なんだかドンキホーテみたいで悲しい気分であった。

週刊朝日  2018年8月17-24日合併号

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山田清機

山田清機

山田清機(やまだ・せいき)/ノンフィクション作家。1963年生まれ。早稲田大学卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(第13回新潮ドキュメント賞候補)、『東京湾岸畸人伝』。SNSでは「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれている

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