大集団の発する大騒音に対して人間は寛容(※写真はイメージ)
大集団の発する大騒音に対して人間は寛容(※写真はイメージ)

 SNSで「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれるノンフィクション作家・山田清機さん。今回は「大騒音」をテーマにおくる。

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 わが家の妻太郎は、ながら族の親玉のような人物である。持ち帰ってきた仕事をパソコンで処理しながら、平然とテレビドラマを見たりしている。しかも、ちゃんと内容を把握しているらしく、時折「ふっ」とか「おおっ」などと感嘆詞を発したりするのである。

 対する大センセイは、わずかでも物音がしていると原稿が書けなくなるタチなので、仕事の最中は必ず耳栓をしている。愛用の耳栓は「イアーウイスパー」という黄色い耳栓だ。

 これはDKSHジャパンという会社が販売している耳栓で、同社は「サイレンシア」という耳栓も出しているのだが、大センセイほどのヘビーユーザーともなると、サイレンシアでは物足りないのである。

 サイレンシアは、いわゆるソフト耳栓だ。装着感は悪くないが遮音性が低い。一方のイアーウイスパーは少々固めの円筒形で、紙縒(こよ)りのように細く潰して耳の穴に突っ込むと、中で膨らんで完全に耳の穴を塞いでくれるのである。

 シンプルな形状でありながら、遮音性は抜群。うっかりイアーウイスパー君を見失った日にはパニックを起こして仕事ができなくなってしまうほど、大センセイにとって、なくてはならない存在なのである。

 だが、この史上最強の耳栓・イアーウイスパーをもってしても、遮断し切れない音がある。それは、サッカーの応援である。

 実は、大センセイがお住まいの地域には、某Jリーグチームのホームグラウンドがある。このグラウンドで試合があると、それはそれはものすごい大騒音が夜の九時頃まで続くのである。

 のべつまくなしに太鼓の音が鳴り響き、おそらくボールがゴールをかすめた瞬間なのだと思うが、千本の海老の天ぷらをいっぺんに揚げたような、「ジョワーッ」という拍手と歓声の入り混じった音がいきなり沸き上がる。異様だ。

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山田清機

山田清機

山田清機(やまだ・せいき)/ノンフィクション作家。1963年生まれ。早稲田大学卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(第13回新潮ドキュメント賞候補)、『東京湾岸畸人伝』。SNSでは「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれている

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