やる気はあるのに、なんだかだるい。仕事も趣味も楽しくて「疲れを感じてない」のに朝起きられない……。そんな自覚のない“隠れ疲労”に心当たりはないだろうか。その状態を放置していると、最悪の場合は突然死、過労死に至ると警鐘が鳴らされている。
損保会社役員の男性(56)は昇進後、夜中に何度も目を覚ましてしまい、朝は目覚まし時計が鳴ってもすぐに起きられなくなった。接待や残業で深夜に帰宅することが増えたが、仕事は充実していて愚痴や不満もなく、家族に疲労感を訴えることもなかった。
異変に気づいたのは男性の妻。男性を連れて東京疲労・睡眠クリニックの梶本修身院長の元を訪れた。
「“隠れ疲労”の典型的な例です。隠れ疲労とは心身の疲れがたまっているのに、それを本人が認識できていない、疲労感のない疲れのことです」(梶本さん)
現代病ともいえる疲れ。疲れを自覚している場合はまだいいほうで、隠れ疲労こそ注意が必要だ。特に、やる気と行動力に満ちあふれる中高年が危ないという。梶本さんは、疲労のメカニズムと回復法をまとめた『隠れ疲労』(朝日新書)を出版。「現代人は自分で思った以上に疲れている」と警鐘を鳴らす。
「隠れ疲労はきちんと向き合わないと、命を奪いかねない危険な症状です」(同)
隠れ疲労はなぜ起こるのか。それを理解するには、心身が疲れている状態の「疲労」と、それを疲れと自覚する「疲労感」の違いがポイントになるという。
梶本さんによると、仕事を頑張ったり、運動したり、精神的ストレスを受けたり、睡眠不足になったりすると「疲れる」が、それは脳の真ん中にある自律神経を酷使することで起こる。自律神経は心拍、血圧、体温、睡眠など体のあらゆる動きをコントロールしている、体の司令塔だ。
「自律神経が疲弊すると、脳の眼窩前頭野という部分に『あなたは疲れていますよ』と情報が送られて、そこで“疲労感”として認識されます。眼窩前頭野は体の危険信号を出す場所です。しかし、人間の脳は、意欲や達成感といった知的機能を司る前頭葉が発達しているため、眼窩前頭野が認識している疲労感を覆い隠してしまうことがあるのです。実際には疲れているのに、疲労感を認識しない状態。これが隠れ疲労の正体です」(同)