足を左右にまっすぐ伸ばして前屈する“開脚”は、体の硬い人が憧れる動作の一つ。解説本がベストセラーになるなど、ブームに。毎日、練習している人もいるのではないだろうか。だが、このブームに異論を唱える専門家もいる。
千葉県に住む主婦、ヒロミさん(40代)の悩みは腰痛。中腰になると痛みが強まり、朝晩の洗顔や歯磨き、風呂掃除は特に苦痛だ。腰痛のきっかけは、1年ほど前に取り組んだ「開脚」だった。
「ジムで開脚を練習しました。前からおなかが床にベターッと付くようになりたいと思っていたので、挑戦してみました」(ヒロミさん)
もともと体が柔らかいほうだったヒロミさんは、何回かの練習で開脚ができるようになり、さらにおなかを前に付けた状態から足を外側に回して、うつぶせになるという“ワザ”も身につけた。
「実は、そのころから腰に違和感が出るようになって。最初は背中を後ろに反らしたときに痛みましたが、そのうちに前に曲げる動作でも痛くなっていきました」
整形外科を受診したが、異常は見つからない。今は多少軽くはなったものの、痛みは治まらないという。
「柔軟性はケガの予防にもなるので、あったほうがいい。ただし、健康面からも、美容面からも、開脚はしなくてもいいものです」
こう話すのは、スポーツインストラクターの坂詰真二さんだ。プロスポーツ選手や実業団チームのコンディショニング指導を担当し、これまでに3千人以上のトレーナーを育成している。
実は股関節の可動域については、日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会が、診察や治療後の評価などで用いる股関節の可動域の参考範囲を、“外転(外側に開く)角度は片側45度、左右計90度程度”としている。
「これは自分の力で無理せず開いた場合の可動域で、体重をかけたり、誰かに引っ張ったりしてもらえば、120~140度ぐらいまではいきます。ですが、バレエなどのダンスや新体操、フィギュアスケートなど、芸術性が重視される競技を行う選手でもない一般の人が、180度も足を開く必要性はありません」(坂詰さん)