開脚は単に不要なだけでなく、やり方によってはケガのリスクを伴うという。冒頭のヒロミさんが痛めたのは腰だったが、トラブルが目立つのは股関節のほう。多いのは、短時間で無理に関節を伸ばそうとするケースだ。関節を安定させている靱帯や、周囲にある関節包が伸びてしまい、股関節が不安定になってしまうことがあるというのだ。

 時間をかけて柔軟性を高める場合でも、同時に筋トレなどで筋力を付け、関節を支える必要がある。坂詰さんによると、体を動かすには“安定性(スタビリティ)”と“可動性(モビリティ)”のバランスが大切だという。可動性だけを高めれば、安定性が保ちにくくなり、ケガにつながりかねない。それを防ぐには、筋肉を付けること。柔軟と筋トレはセットで考えなければならないのだ。

 過度な開脚については、股関節の病気に詳しい整形外科医、石部基実クリニック(札幌市中央区)院長の石部基実さんも、「問題がある」と話す。

「本来、股関節を広げようとすると、骨盤と大腿骨が当たってそれ以上は開かないはずなんです。もちろん個人差はあるので、開脚が簡単にできる人もいます。ですが、できない人が無理に足を開こうとすることで、痛みを引き起こすことは十分に考えられます」(石部さん)

 石部さんによると、痛みが起きる原因は、三つ。一つは無理に伸ばされた筋肉が損傷することで生じる痛み、二つめは股関節唇(しん)という股関節内の周囲を取り巻く軟骨が損傷して生じる痛み、三つめは靱帯が過度に引き伸ばされることで生じる痛みになる。

 少林寺拳法の有段者でもある石部さん自身、過去に開脚を練習したことがある。

「時間をかけて取り組んだつもりでしたが、股関節に痛みが出てきました。エックス線写真を撮影して確認しましたが異常はなく、内転筋という太ももの内側にある筋肉の損傷でした。今も開脚する姿勢を取ると痛みます。“過ぎたるは及ばざるがごとし”ですね」(同)

次のページ