夕暮れの極北の河を渡るカリブー(撮影/星野道夫、写真提供/星野道夫事務所)
夕暮れの極北の河を渡るカリブー(撮影/星野道夫、写真提供/星野道夫事務所)
星野道夫Michio Hoshino/1952年、千葉県生まれ。高校在学中の69年、約2カ月間アメリカを一人で旅する。慶応義塾大学在学中の73年、アラスカでイヌイットの家族と一夏を過ごす。78年にアラスカ大学に入学。在学中から写真を始め、「週刊朝日」に連載した作品群「Alaska 風のような物語」で90年に木村伊兵衛写真賞受賞。96年、カムチャツカ半島でテレビ番組取材中にヒグマに襲われ急逝(写真提供/星野道夫事務所)
星野道夫
Michio Hoshino/1952年、千葉県生まれ。高校在学中の69年、約2カ月間アメリカを一人で旅する。慶応義塾大学在学中の73年、アラスカでイヌイットの家族と一夏を過ごす。78年にアラスカ大学に入学。在学中から写真を始め、「週刊朝日」に連載した作品群「Alaska 風のような物語」で90年に木村伊兵衛写真賞受賞。96年、カムチャツカ半島でテレビ番組取材中にヒグマに襲われ急逝(写真提供/星野道夫事務所)

 カリブー、グリズリー、ホッキョクグマ、アザラシ─―。北の大地に生きる動物たちと自然を撮り続けた星野道夫が取材中に亡くなってから、今年で20年。いまなお愛される写真家が、私たちに遺したものを振り返る。

【写真特集 星野道夫が残した世界へ】

 星野道夫が亡くなって20年。だが、彼の作品は色褪せぬどころか、ますます輝きを放っている。その理由はどこにあるのだろうか。

 写真には“決定的瞬間”がある。たとえば星野の、グリズリーが流れのなかでサケを獲る瞬間の一枚。ところが彼自身は「決定的写真というのはあまり意識していない」と、元編集者で評論家の湯川豊氏に話したという。そして、自然を見るとき、人間はどこから来てどこへ行くのかという問いかけが心のなかにあり、「そういう意識でアラスカを撮っていると何かが見えてくる」と言った。湯川氏は語る。

「この意識は、つきつめていくと、生命とは何か、という問いになる。星野はその問いを持って生涯にわたって旅し、経験し、撮り続けた。それが画面のなかにどことなく現れ、『物語』を紡ぐ。だから彼の写真には感動があるのでしょう」

「どんなことでも、自分の身で体験する」という姿勢を貫いた写真家が遺した物語を、感じたい。

週刊朝日  2016年9月2日号