「死んでも見せない女の本音」作家・北原みのり 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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「死んでも見せない女の本音」作家・北原みのり

連載「ニッポン スッポンポンNEO」

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 文筆家の北原みのりは祖母との会話で、女が男には本音を隠す生き方をせざるを得ないことを感じたという。

*  *  *
 来年90歳になる祖母が、体調を崩し緊急入院した。もしかしたらもう会うのは最後になるかもしれない。そういう覚悟で病院に向かった。

 私は祖母にとても影響を受けている。旅館の女将として采配を振るっていた祖母。好きな仕事で稼ぐ面白さを教えてくれ、「40代からが女は一番愉しいよ」と教えてくれ、世代を超えて「女どうし」で語り合う楽しさを教えてくれた。その祖母とのお別れが、そう遠くないのはとてもさみしい。

 病室で二人きりになった時、祖母の手を握りながら思い出話などをした。すると祖母が、目をつむったままこう言った。「あんたが女の子で、よかった」と。唐突な独り言のようにも聞こえたので、ん? と聞き返すと、「みーちゃんが女の子で、よかった」とまた言った。なぜか涙がどばっと出た。

 それから祖母は苦しそうに、でも喋らずにはいられないという感じでこう続けた。「うち(祖母の家)は男ばかりで心配だわ。男は役に立たない……」と。私の口が悪いのは祖母譲りなんだなぁ……と私は祖母の手をギュッと握った。すると祖母はニヤリといたずらっぽく笑って、私の目を見た。シスターフッドだね、お婆ちゃん! やっぱり、いざという時に頼りになるのは女だよね!

 と、その時である。正に今、祖母が「役に立たない」と笑った男子が病室に入ってきたのであった。私の従兄弟である。昔ならば「本家長男」である。すると……祖母は彼を見ると、起き上がらんばかりにニッコリし、「今、ちょうど話してたんだよぉ、うちは、男がいっぱいいるから安泰だって!」と非常に弱々しい調子ではあるが、ハッキリと言いやがったのであった。全くのクソババアである。

 そうなんだよね。こうやって、女は生きてきたんだね、お婆ちゃん。苦々しい気持ち半分、大声で笑い出したい気持ち半分。本音は隠したまま、男の機嫌取りを、女は水を飲むように、生きるために必要なこととしてやってきた。そして死の間際ですら、女の本音は男に見せないのだ。女の本音は、女どうしで握る手の内。男には怖い話です。

週刊朝日  2014年11月21日号


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北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表

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