※写真はイメージです(gettyimages)
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「大変な危機にあるのに見て見ぬふりをしている」

元日産自動車COOで、現在は官民ファンドINCJ(旧産業革新機構)の会長を務める志賀俊之さんは事あるごとに「大変な危機にあるのに見て見ぬふりをしている」と日本の自動車産業に警鐘を鳴らしている。

日本勢の電気自動車(EV)への対応の遅れを憂いているのだが、EVの伸びが今、踊り場にあるのに、なぜそこまで危機感を持っているのか。古巣の日産の経営不振を招いた責任も自らにあるという志賀さんに危機感の実相を聞いた。

 ――近年急成長したEV市場が最近は踊り場にあり、日本勢が強みのハイブリッド車(HV)が主要国で伸びています。自動車業界では一頃の危機論は少し薄らいでいるようにみえます。EV化に取り組む時間的余裕ができたような空気があります。

 志賀 根本的な危機感を持っています。どんな産業でも、大きな変化が起きてきました。家電、カメラなどの分野ではアナログからデジタルに転換し、競争環境が激しく変わりました。カメラの世界ではフィルムがなくなり、ソニーやパナソニックがカメラをつくる時代です。同じような業態転換が自動車産業でも起きる、起きているという危機感があるのです。

クルマの価値はソフトウエアが決定する時代に

 ――確かにデジタル家電、スマホなどの世界では日本勢は競争力を失いましたが、クルマの世界でも同じことが起きるのでしょうか? デジタル家電などに比べると、部品をすり合わせでつくりあげる部分が多いクルマは統一的な規格でつくるモジュール部品が多いデジタル家電とは違うのではないでしょうか。

 志賀 おっしゃることもわかりますが、クルマづくりの世界をみると急速にソフトウエアのウエイトが高まっています。ソフトウエアがクルマの価値を決定づける時代になりつつあります。私が日産の役員だった2010年代半ごろまでは、自動車の価値はハードウエアが9割、ソフトウエアが10パーセントといわれていました。

 2020年代になってくると、ソフトウエアが6割、ハードウエアが4割と逆転しました。今後、クルマの周辺環境の認識、判断、操作までをAIが担う「End to End(E2E)」の自動運転などが広がってくると、ソフトウエアの比率はもっと高まってきます。まさにSDV(ソフトウエアがクルマの性能を決めるソフトウエア・ディファインド・ビークル)の時代になります。

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