国産自動車メーカーが抱える「不具合ゼロ目標」の足枷
――クルマは命を預かっているわけですから、不具合ゼロを目指すのは当然だと思います。その意味では、伝統的自動車メーカーの考え方は正しいのでしょうが、それが今の競争環境では足枷になっているということですね。
志賀 テスラもBYDも中国の新興メーカーもやっぱり事故は起こっています。でもこれをどう受け止めるかはお国柄やモノづくりの考え方で異なります。
テスラが最初に売り出したクルマはフロア1杯にバッテリーを積んでいた。クルマがぶつかり衝撃を受けると、リチウムイオンバッテリーから火が出る可能性があります。テスラのオーナーズマニュアルには、「衝突事故が起きたら速やかに外に出てください」と書いてあった。火が出るかもしれないから逃げてくださいという考え方です。
一方、日産リーフは2010年の発売から一台もバッテリーが火を吹いたことはありません。衝撃をあまり受けないようにフロアの真ん中にしかバッテリーを積んでいなかったからです。バッテリーパックも頑丈につくっています。
テスラなどはまずは商品を市場に出して、問題があれば後で改善するという考え方です。クルマの価値がオンラインでアップデートできるソフトウエアが決める時代になると、テスラやBYDなどの新興メーカーの考え方が有利になっていくのだと思います。
「ワイパーモーター」に表れた決定的な差
――クルマのソフトウエアがハードウエアを上回るようになると、クルマづくりにはどんな変化が起きてくるのでしょうか。
志賀 ワイパーモーターの例をお話ししましょう。伝統的な自動車メーカーは、豪雪地帯や雨がたくさん降る地域で販売するクルマのワイパーモータには出力が大きいものを使いますが、ほとんど雨が降らないようなところでは小さいモーターを使います。それぞれの地域にあった最適の部品を使うという考え方です。
ところがテスラのクルマに使われるワイパーモーターは1種類だけです。雨が降らない地域では過剰品質ともいえるモーターが載っているわけです。なぜならソフトウエアでモーターを制御して、どこでも最適に使えるようにすれば、モーターは1種類だけで対応できるからです。ソフトウエアでハードウエアの性能に幅を持たせられるようになると、ハードウエアの作り方が変わってきます。
――テスラがEV「モデルY」の車体のフロア部分の量産で、世界で初めてギガキャスト(大型部品をアルミニウムで一括成型する鋳造技術)を導入しました。テスラのイーロン・マスク氏はクルマが多くの部品の組み合わせでつくられることに「おもちゃのクルマのように簡単につくれないのか」と不満に思っていたようですね。
志賀 ギガキャストはテスラがEVをつくる自動車メーカーだからこそ生まれた技術だと思います。伝統的自動車メーカーは、1つのフロアをつくるのに大体70~80の部品を継ぎ合わせてつくっていました。
1つの車種に1.5リッター、1.6リッター、2リッター、あるいはディーゼルといったいろんなエンジンを積んでいました。国によってもレギュレーションが違う。いろいろな条件に対応するために様々な部品を組み合わせて、車体をつくってきたのです。