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引きこもり当事者が部屋の「自撮り」を公開 イメージを覆す花、パッチワーク…
部屋の写真からは「ひきこもり」と、ひとくくりにはできない彼らの多様な生活ぶりが透けて見える。「思いを言葉で表せない当事者も、シャッターを押すだけの写真という方法なら表現に参加できる」(渡辺さん) (c)I'm here project 2018-2019
渡辺篤さん。「社会に出ていても、抑圧を受けて精神的にひきこもっている人はいる。生きづらさは当事者だけの問題ではない」(撮影/有馬知子)
自らも社会との接触を完全に絶った経験があるアーティストが、 ひきこもり当事者の部屋の光景を集めた写真集を出版する。心の傷があふれている。
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アーティストの渡辺篤さん(40)の元に送られてきた、あるひきこもり当事者の部屋。写真を撮った本人から、現在の境遇や心情についての説明はなかった。それでも少しだけ開けられたカーテンの様子は、見る者に何かを訴えかける。渡辺さんは「外から入って来られたくはないが、自分はカーテンの隙間から外を垣間見たい。社会とのつながりをすべて遮断してしまいたくはないという思いがあるのでは」と推測する。
閉ざされた暗い部屋に万年床、ごみや雑誌が散らばる中で、テレビやパソコンの画面だけが光を放つ──。ひきこもりの部屋というと、こうしたステレオタイプなイメージを抱く人も少なくない。だが、ひきこもりの当事者が部屋を「自撮り」した写真集を見ると、実に多彩だ。
渡辺さんは昨年、「アイムヒア(私はここにいる)」と題したプロジェクトを立ち上げ、当事者が撮影した部屋の写真を募集。年末までの3カ月間で、約40人から160枚あまりが寄せられた。
ある女性(22)の部屋には、散らかった中にも花やパッチワーク、絵が飾られ、彼女が自分なりの美意識を持つ人であることがわかる。写真に添えられた文章によると、発達障害で仕事がうまくいかずに何度もひきこもりを繰り返しているという。
「気持ち悪い自分を愛してあげたくて、インターネットを徘徊しては模索する日々です。産んでくれてありがとうと両親に言える日が来ることを祈り、今日も生きています」(女性)
別の当事者の部屋は、テレビやエアコンなど必要最低限の家具しかないがらんとした空間だ。「学校に行けなくなって、断続的にこもって10年過ぎました」という。ベッドの上にはアライグマのぬいぐるみがちょこんと置かれ、わずかに部屋の空気を和ませている。
「写真を見ているうちに、当事者がひきこもった事情まで、じわじわとこちらに迫ってくる感覚がある」(渡辺さん)
空き缶などのごみに埋もれた写真もある。部屋の主は「夜中にコンビニへ出かけては、缶チューハイを買って飲んでいます。部屋にごみがあることで、こんな自分を罰している気がして安心できます」というメッセージを寄せた。
反対にきちんと整頓され、ほとんど私物のない部屋も見られた。だが渡辺さんは「片付いた部屋が、過度な潔癖症や、物欲すら失った無気力状態を暗示しているのかもしれない」と話し、当事者の精神状態はむしろ深刻な場合もあると指摘する。(ジャーナリスト・有馬知子)
※AERA 2019年2月18日号より抜粋




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