数ある集団的自衛権関係の本の中でも、今日の国際情勢を見すえているという点では、これがいちばんリアルだった。伊勢崎賢治『日本人は人を殺しに行くのか』。副題は「戦場からの集団的自衛権入門」だ。
 そもそも安倍晋三首相はなぜ集団的自衛権の行使容認を急ぐのか。「アメリカが自衛隊の派遣を望んでいるからだ」というのを信じている人は少なくないだろう。でも、その前提が勘違いだったら?
〈日本政府(外務省)を、自衛隊の海外派遣へと駆り立てたのは、「湾岸戦争のトラウマ」という名の取り返しのつかない勘違いです〉と著者はいいきる。湾岸戦争時に130億ドル(1兆7千億円)もの資金協力を行いながら、国際社会で評価されなかった日本。「だから日本も汗を流さなきゃダメなんだ」。さんざん聞かされた話だが、実際はクウェートへの伝言ミスが原因だった。アメリカ同時多発テロの後、当時のアーミテージ米国務副長官が口にした「Show the flag」という言葉も実際は「旗幟を鮮明にしろ(日本側が決めろ)」という話で、日本政府に協力を求める言葉ではなかった。
 日本政府と外務省の軍事音痴、外交音痴ぶりはすさまじい。「軍事同盟というのは血の同盟であって、日本人も血を流さなければアメリカと対等な関係にはなれない」と安倍首相はいうが、軍事同盟とはもっとプラグマティックだ。〈「血の絆」みたいなウェットで曖昧な関係は、私が接してきたNATOやPKOの統合司令部には存在しません〉
 03年のイラク戦争によるイラク人死者は10万人超。その戦争に加担したのは「国益」にかなっていたと公言する日本の政府関係者。〈イラクの民の血を差し出すかわりに、自国の安全をアメリカから買う〉なんて、〈私は、日本のこんな行いが、日本人として本当に恥ずかしい〉。
 石破茂『日本人のための「集団的自衛権」入門』(新潮新書)とセットで読まれたし。政府の言い分がいかに机上の空論か、よーくわかる。

週刊朝日 2014年10月31日号