お腹を膨らませる仕組みはフグではわかっていて、胃に水を溜めてから、胃の入り口と出口を括約筋で締めているんです。だから水は漏れ出ません。ところが、ナヌカザメにはその括約筋がない。どうやって水を出さないようにしているのか2年くらい悩んでいましたが、調べたところ、その謎を何とか解明できそうになって来ました。私たちの立場は「機能形態学」と言いまして、生物の形には必ず意味があると考える。例えば頭がハンマーのようなシュモクザメというサメがいますが、あれは断面が飛行機の翼のような形をしていて、頭を水中で舵のように使っているのです。このナヌカザメの謎も、体の中の構造に秘密があると考えられています。

アカシュモクザメ
アカシュモクザメ

 このように、ナヌカザメ1つとっても謎はたくさんある。まずはぜひ、「バトル・ブレイブス」などを通じて興味を持ってもらいたいと思っています。私は2016年から、子どもたちにもなじみやすいよう音楽でサメの情報を伝える専門チャンネル「さめ先生のサメの歌」をYouTubeで始めました。作詞は私が、作曲と歌は次女が担当してこれまで16曲を公開。一番人気の「ジンベエザメの歌」はアクセスが13000件に達しました。

 もちろんサメ以外にも面白い生物や学問分野はたくさんあります。サメが大好きでサメの研究者になりたいという子どももたくさんいるんですが、私はいつも「生物や英語、国語などを勉強しなさい」とアドバイスするようにしています。サメオタクでは困ります。もっと広い知識を身につけて、それから研究をすること、それが大切です。

――ところで、サメっておいしいのでしょうか。

 おいしいです。メガマウスザメなどはふらふら泳いで筋肉がそれほど発達していないから水っぽい。でも、アオザメやネズミザメなどは泳ぎ回っているので筋肉がしっかりしていておいしいです。ヨシキリザメははんぺんなどの練り物に使われますが、サメ肉が入っていないと味が落ちると言われるほどです。

ネズミザメ
ネズミザメ

 函館の料理学校でサメ料理を研究している先生がいて、そこでネズミザメ、ヨシキリザメなど4種類のサメを食べ比べたことがあります。ある白身魚と同じ条件で調理し、栄養士、調理師さん、そして生徒さんたちに味の評価をしてもらいました。その結果、8割の人が「白身魚よりもおいしい」という評価をしたんです。評価が出揃ってから、その白身魚が高級魚のヒラメだった、と明かすと、皆さんが驚いていました。私は「サメはおいしくない」という考えは間違いだと思います。

ノコギリザメ
ノコギリザメ

※写真はすべて仲谷一宏先生提供

<プロフィール>
仲谷一宏(なかや・かずひろ)北海道大学名誉教授。小さいころから釣り好きで魚の研究を志し、卒論執筆時に同期の学生を手伝ったことからサメ研究の世界に。著書に『さめ先生が教えるサメのひみつ10』など。子ども向け著書も多数。『バトル・ブレイブス 恐怖のサメ軍団』(8月発売)では監修を担当。YouTubeチャンネル「さめ先生のサメの歌」は総アクセス7万件に。アクセスする際は「さめ先生のサメの歌」で検索を。

著者プロフィールを見る
福井洋平

福井洋平

2001年朝日新聞社に入社。週刊朝日、青森総局、AERA、AERAムック教育、ジュニア編集部などを経て2023年「あさがくナビ」編集長に就任。「就活ニュースペーパー」で就活生の役に立つ情報を発信中。

福井洋平の記事一覧はこちら