中国に実際に行ったとき、気をつけるべき点は何が挙げられるのか。

「電話やメール、FAXまでもがすべて監視されていると思って間違いありません。あと拘束の候補になりそうなターゲットには、常時監視がついているので、話す内容も気をつけるべきです。口が滑っても『クーデター』や『テロ』といった言葉を出したり、ゼロコロナの批判をしたりしてはいけません。会話に出た名詞を恣意(しい)的に切り取って、反スパイ罪の適用をしてくる可能性があります。実際に伊藤忠の男性は16年に、たわいもない北朝鮮に関する話題を中国政府の関係者と話したことが罪状となりました」

■露と並んで日本で暗躍する中国スパイたち

 中国でスパイの取り締まりが厳しくなるなか、日本国内では中国スパイが暗躍中だ。

 「機密情報を日本政府や日系企業から得ることを目的としたスパイが、日本で活動中です。特に多いのはロシアと中国です」

 日本での中国人スパイについては、少し前に問題になっている。

 中国がいま、自国の農業のIT化を推し進めている真っただ中の事件だった。日本の電子機器メーカーで働く技術者の男性が去年、クラウド上で管理されていたスマート農業の情報を不正に持ち出したとして、警視庁が不正競争防止法違反の容疑で捜査していたことが4月3日に明らかになった。

 中国人男性は農作物の栽培を最適化する機器のプログラムを、SNSで中国国内に勤める知人2人へ送信していたという。その男性はすでに国外へ出国している。中国共産党員で、中国人民解放軍と接点があったことも明らかになっている。

「中国は人海戦術のスパイ活動を行っており、日本にいる留学生、会社員、経営者まで幅広くスパイ活動を依頼します。また、研究や取材などこじつけて、情報を提供できないかと接触してくることもあると聞きます。また、対象企業に勤めるビジネスマンが中国に出張で来たとき、ハニートラップに引っ掛けて、脅して協力者にしてしまうこともあります」

 松丸氏は最後に、

「『日本はちょろい。こういう状況でも日本企業は中国から撤退できない』と思われがちな面があるので、企業の経営者はいま一度、自社の情報管理体制やコンプライアンス意識の強化などを一新する必要があります」

 と警鐘を鳴らす。

 (AERA dot.編集部 板垣聡旨)