帆船をイメージしたという渋谷教育学園渋谷中学高校の校舎。渋谷駅から徒歩数分で、おしゃれな街並みに溶け込んでいる(画像=渋谷教育学園提供)
帆船をイメージしたという渋谷教育学園渋谷中学高校の校舎。渋谷駅から徒歩数分で、おしゃれな街並みに溶け込んでいる(画像=渋谷教育学園提供)

「ご両親の時代とは様変わりですよ」――。首都圏で私立中学入試の「勢力図」の変遷を語るとき、代表的な例として名前が挙がるのが、渋谷教育学園の幕張中学高校(渋幕)と渋谷中学高校(渋渋)だ。いずれも、田村哲夫理事長(87)が経営のかじをとってきた中高一貫校で、東大合格者数で全国有数の実績を残しているほか、海外大学への進学を早くから支援するなど先進的な教育でも注目される。近年は、男女の「御三家」と言われる名門中に受かる実力がありながら、渋幕、渋渋を選ぶケースが珍しくない。伝統が重視されがちな私学の世界で、なぜこれほどまでに人気を集めることができたのか。今回は、特に競争の厳しい東京で「私立共学トップ」の難関校に成長した「渋渋」に焦点を当てて、躍進の秘密に迫る。「伝説の校長講話 渋渋・渋幕は何を大切にしているのか」(中央公論新社)の著書もある読売新聞編集委員の古沢由紀子氏に寄稿してもらった。

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■渋幕との違いは? 際立つ国際性、元気な女子

 振り返れば、筆者が初めて渋谷の校舎に田村理事長を訪ねたのは、社会部記者として文部省(当時)を担当していた1990年代後半にさかのぼる。渋渋は共学の中学校が併設されたばかりで、前身の渋谷女子高校からの移行期だった。渋谷の駅近ながら閑静な環境の中、生徒たちがのびのびと学んでいる様子を記憶している。田村氏は自ら千葉県に創設した渋幕、父から受け継いだ女子高を共学化した渋渋の校長を兼務する傍ら、文部省の中央教育審議会委員を務めるなど、広い視野を持つ論客として教育界で知られた存在だった。

 渋幕と渋渋は、ともに「自調自考」「国際人としての資質」「高い倫理感」の三つの教育理念を掲げる。明るく自由な雰囲気や海外からの帰国生を積極的に受け入れてきたことも共通する。一方で、その成り立ちや立地は異なるため、微妙なスクールカラーの違いも感じられる。渋幕は今や、押しも押されもせぬ千葉県トップの進学校という風格を備え、県内の生徒や男子の割合が高い。渋渋はやはり都会的で、帰国生の人数も多めだ。男子の受験者数が全体では女子を上回るようになり、生徒数も男女がほぼ同数とはいえ、女子生徒が元気な印象は強い。

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「これからは男女共同参画の時代」