【インタビュー2】古橋柚莉医師(栃木県出身 自治医科大学卒 日光市立国民健康保険 栗山診療所 所長)

「患者さんは顔なじみばかり」と古橋医師。同じ名字の人が多いので名前で呼んでいる。「地域の人と一緒に食事をしたり、山登りに行ったり、どっぷり浸っています」 写真/高橋奈緒(写真映像部)
「患者さんは顔なじみばかり」と古橋医師。同じ名字の人が多いので名前で呼んでいる。「地域の人と一緒に食事をしたり、山登りに行ったり、どっぷり浸っています」 写真/高橋奈緒(写真映像部)

 古橋柚莉医師は栃木県佐野市出身。8歳の時、祖父が血液の難病になったことがきっかけで医師を志した。地元志向で、地域枠受験は自然な流れだったという。医学部時代は年に1回、栃木県の職員の面談を受けていた。「卒業後の働き方について、丁寧に教えてもらい、将来の不安が解消されました。自治体によって条件や状況が異なるようなので、地域枠をめざす人は受験前に十分な下調べをしておくことをおすすめします」

 自治医科大学病院で初期研修後、同院救急科に入局し、後期研修を2年。5年目は真岡市の芳賀赤十字病院救急科へ。そこで次第に「診療所で家庭医としての経験も積んでみたい」という気持ちが湧いてきたという。

「週に1回、研究日をもらえていたので、昨年はこの日を使って、在宅医療の診療所で勉強をさせてもらうことができました」

地域の高齢者に向けた健康教室で、糖尿病について話す古橋医師。生活改善の重要性と合併症の怖さを熱心に伝えた 写真/高橋奈緒(写真映像部)
地域の高齢者に向けた健康教室で、糖尿病について話す古橋医師。生活改善の重要性と合併症の怖さを熱心に伝えた 写真/高橋奈緒(写真映像部)

 思い切って6年目の勤務先に「診療所」を希望。三つ挙げた希望先から決まったのが栗山診療所だ。県北の鬼怒川温泉のさらに北、川治温泉駅から車で約20分の山間部、人口1千人余、65歳以上が52%を占める集落で市が運営する唯一の医療機関。代々、自治医科大学の卒業生が派遣される場所でもある。

「周囲から、『田舎でやっていけるの?』と言われましたが、住んでいる人がいるのだからなんとかなるだろう、と楽観的でした。ただ、最初はこれまでやってきた救急の現場と違って、検査ができないことに戸惑いました。診療所にはX線とエコーしかありません。しかし主な疾患は生活習慣病です。時間をかけて問診をして異常を見逃さないこと、生活指導や服薬指導に力を入れることなどで、十分に対応できることがわかってきました」

 義務年限の9年間が終了した後の働き方は模索中という古橋医師。しかし「不安は全くない。今を楽しみたいです」と笑顔だ。

(文・狩生聖子)

※週刊朝日ムック『医学部に入る2023』
※週刊朝日ムック『医学部に入る2023』

※週刊朝日ムック『医学部に入る2023』より