そうこうしているうちに12月になりました。上海は海沿いの街ということもありただでさえ風が強めですが、高層ビルの谷間を根城にするニャジラたちにとって、冬は厳しい季節です。

◆   後ろ姿が、自分の人生と重なって見えた

 ある日、ニャジラは帰宅した私に(数分ですが)ひとしきり甘えた後に、いつものように距離を取って独りでぽつんと佇みました。その後ろ姿を見た瞬間、自分の人生と重なって見え、心が動いたのです。

寂しそうに見えた“孤高のボス”ニャジラの後ろ姿(提供)
寂しそうに見えた“孤高のボス”ニャジラの後ろ姿(提供)

 勝手な想像ですが、ニャジラは本当に疲れ切っていたけれど責任感から仲間を見捨てることできずにがんばっていたのではないか。そのつらさを紛らわすために、私たち外国人にだけ弱さを見せてくれたのかもしれない。そして、少しだけ甘えた後に、気を取り直してボスとしての自分に戻っているのだ……と感じてしまいました。

 それまでは、自分たちに猫を飼えるか? ボス猫が家猫になれるのか? 外猫のほうが自由があって楽しいのではないか? という疑問に答えを出せず、踏ん切りがつかなかったのですが、その後ろ姿を見た瞬間に、この猫に温かい家で平和に長生きをしてもらいたい、安全な環境で幸せにしたいと思ったのです。

「お前はもう十分に仲間のために尽くした。これからは自分の幸せのためだけに生きたらいい、そのために全力で手を貸してあげよう」

 そんなふうに考え、妻に「やっぱりあの猫を飼おう」と伝えました。

 妻は妻で悩んでいたようで、「彼は孤高のポジションですごく寂しそうに見えてかわいそうに思っていた」と明かし、「お家に入れて寂しさを感じさせないようにしてあげたい」と、自分の思いを私に伝えてくれました。それで決まったのです。

 そして、12月20日に我が家に招き入れ、その日をニャジラの誕生日としました。

◆ 次々と明らかになるニャジラの「物語」

 ニャジラには最初、用意したテントの中で過ごしてもらったのですが、「にゃん、にゃん」と顔に似合わない可愛い声で、少し鳴きました。

 3日後、少し慣れたところで病院に連れていきました。すると、ニャジラは診察室で大暴れ。獣医さんと看護師さんが3人掛かりで押さえつけたのですが、採血どころか体の診察もさせないほど……。(引っ掻いたりして)獣医さんにけがをさせ、ニャジラ自身も傷ついてしまいました。

 何とか鎮静剤を打ち診療してもらうと、いくつかのことが判明しました。

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実は飼い猫だったニャジラ