週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2021』より
週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2021』より

 週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2021』では、全国の病院に対して独自に調査をおこない、病院から得た回答結果をもとに、手術数の多い病院をランキングにして掲載している。また、実際の患者を想定し、その患者がたどる治療選択について、専門の医師に取材してどのような基準で判断をしていくのか解説記事を掲載している。ここでは、「乳がん手術」の解説を紹介する。

【図解】乳がん手術の選択の流れはこちら

*  *  *

 女性がかかるがんの中で、最も多い乳がん。ほかのがんに比べると、比較的若い世代で発症するのが特徴で、30代後半から増え始め、40代後半でかかる人が多い。I期の5年生存率はほぼ100%で、II期でも95%を超える。乳がんの多くは、乳汁(母乳)を乳頭まで運ぶ「乳管」にできる。がんが乳管内にとどまっている「非浸潤がん」と乳管の外まで広がっている「浸潤がん」に分けられる。

 治療は、手術で乳房内のがんを取りきることが基本だ。がんとその周囲を部分的に切除して乳房を残す「乳房温存術(部分切除)」と乳房全体を切除する「乳房切除術(全摘)」がある。部分切除の場合は、術後に残した乳房から再発するリスクがあるため、それを防ぐために、術後の放射線治療が必要だ。

 全摘した場合は、失われた乳房を補うための再建術を受けられる。再建には自分のおなかや背中など「自家組織」を使う方法と人工物の「インプラント」を使う方法とがある。

 乳がんはほとんどの場合、手術に薬物療法を組み合わせて、再発を予防する。使用する薬は「抗がん剤」「ホルモン剤」「分子標的薬」の3種類で、がん細胞の性質(サブタイプ)によって使い分ける。

 遠隔転移がある場合は薬物療法が中心となるが、この場合もサブタイプに合わせて、薬を選択する。

 がん治療の基本は、手術で乳房内のがんを切除することだ。手術の方法は、大きく分けて「乳房温存術(部分切除)」と「乳房切除術(全摘)」がある。

 部分切除は、乳腺組織を部分的に切除する方法で、全摘は大胸筋と小胸筋を残してすべての乳腺組織を切除する方法だ。

 術後の生存率は変わらないので、がんの大きさや広がり、位置などにより選択する。ただし、明確な基準があるわけではないので、どちらも選択できる状況であれば、本人の希望が重視される。順天堂大学順天堂医院の齊藤光江医師はこう話す。

「どちらにもメリットとデメリットがあります。それを理解して検討することが大切です」

 部分切除は自分の乳房を残せるが、残した乳房に局所再発のリスクがある。そのリスクを低くするためには、術後の放射線治療が必要だ。全摘は乳房内の再発のリスクは極めて少ないが、乳房の膨らみを失う。しかし、術後に形成外科で乳房を再建することもできる。

 齊藤医師は「どちらを選んでも変わらない点があることを理解しておくことも必要」と話す。変わらない点とは、リンパ節転移の個数、その結果を踏まえた薬物療法の内容、術後の遠隔転移率や余命などだ。この点を誤解している人は多いという。

 乳がんは、術後の整容性が大きな判断材料になる。相良病院の相良安昭医師はこう話す。

「がんの範囲が広い場合、がんの位置が乳房の下や乳頭の近くにある場合などは、温存すると変形しやすい。主治医にしこりの広がりを乳房に描いてもらい、温存術を選択した場合に乳房の変形がどの程度予想されるかを確認されるとよいと思います」

■乳房再建の時期や方法は病院の事情による面も

 全摘をする場合、次に乳房を再建するかどうかの選択がある。再建をしない場合、手術は乳房の切除術だけで完了するが、乳房の左右差により姿勢が悪くなることがある。

 再建をする場合は、再建をおこなう時期や方法についても選択肢がある。時期は、乳房の切除手術と同時に再建する「同時再建」と手術後に期間をあけてから再建する「二次再建」がある。二次再建のほうが合併症率は低いというデータがある。

 再建方法には、自分のおなかや背中など「自家組織」を使う場合と人工物の「インプラント」を使う場合があり、どちらも保険が適用される。自家組織は一生ものになるが、大がかりになるので手術時間は長くなる。

「再建をおこなう形成外科医が常勤しているかなど、再建の時期や方法に関しては病院の事情によって選択が偏ることがあります。主治医に希望を伝えてそれができないと言われたら、セカンドオピニオンを求めてみるといいでしょう」(齊藤医師)

■薬物療法の薬の選択はサブタイプによって決まる

 乳がんは、早期からがん細胞が全身に広がりやすいと言われている。このため、がんが乳管内にとどまっている非浸潤がんの場合を除いて、手術に薬物療法を組み合わせるのが基本だ。

 がん細胞の性質(サブタイプ)に合わせて、(1)抗がん剤、(2)ホルモン剤、(3)分子標的薬を組み合わせて、もしくは(1)(2)は単独で使用する。使用する薬剤はサブタイプによってある程度決まっている。ただし、サブタイプがホルモン受容体陽性の場合、ホルモン剤に抗がん剤を追加するかどうか迷うケースがある。

 抗がん剤はホルモン療法に比べて短期間にさまざまな副作用が起こったり、後になって戻りにくい副作用が発現したりするからだ。よって念のためという使い方は避けたほうがいい。

「迷うケースでは、再発リスクを調べる多遺伝子検査をすすめています」(齊藤医師)

 抗がん剤は休薬期間を含めて6カ月程度、ホルモン剤は5~10年、分子標的薬は約1年使用するのが一般的だ。

 ランキングの一部は特設サイトで無料公開しているので参考にしてほしい。「手術数でわかるいい病院」https://dot.asahi.com/goodhospital/

【医師との会話に役立つキーワード】

《サブタイプ》
乳がんは病期のほか、がんの性質(サブタイプ)でも分類される。サブタイプによって有効な薬の種類がわかる。病理検査でわかるので、自分のサブタイプを医師に確認すること。

《遺伝子検査》
「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」を調べる血液検査。遺伝性の場合は2度目の乳がんの発症を極力抑えるために全摘を選ぶ、反対側の乳房のリスク低減手術も実施する、卵巣卵管切除で卵巣がんや卵管がんのリスクを減らすなど、治療の選択にも関わる。条件により保険が適用される。

【取材した医師】
順天堂大学順天堂医院 乳腺科教授 齊藤光江 医師
相良病院 院長 相良安昭 医師

(文・中寺暁子)

※週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2021』より