お客さんみんなでカンパーイ! この一体感はスナックならでは。

ツキアタリミドリの常連、三角地帯でやきとん屋を営むご主人(中)とジョンさん(右)とマットさん(左)。

レトロな商店街「エコー仲見世」など、さまざまな店が密集する三軒茶屋・三角地帯。迷路感覚で、さまよいたい場所です。

ママの関根みどりさん。外国人も日本人も共通しているのは、ツキアタリミドリのお客さんはみんな“ママのファン”ということ!

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みんなの横丁〈外国人編〉

海外観光客が東京の横丁に惹かれるのはほかでは味わえない「体験」と「物語」

「東京の横丁」に魅力を感じているのは、日本人だけではありません。実は近年、日本在住の外国人や、外国人観光客からも、横丁は注目を集めていることをご存知でしょうか?

多くのスナックや居酒屋が軒を連ねる東京の横丁、三軒茶屋・三角地帯。三軒茶屋駅周辺にある三角形のエリアの通称で、様々な飲食店が連なっています。そこに外国人常連客で賑わうスナックがあると聞いて、一緒に訪れたのは「スナック女子」として、さまざまなスナックでのイベントを手掛ける五十嵐真由子さん。近年は海外からの観光客を対象とした横丁やスナックのツアーも行っているという五十嵐さんに、海外の方が東京の夜をどう楽しんでいるのか、いろいろとお聞きしました!

プロフィール

五十嵐真由子さん
オンラインスナック
横丁文化株式会社
代表

スナック女子、通称「スナ女®」。オンラインスナック横丁文化株式会社代表。初スナック体験から約10年をかけ自ら約900軒以上の扉を開き、スナック業界を盛り上げるべく“スナックエンターテインメント”を創出。2020年にコロナ禍で大きな打撃を受けたスナックを支えるべく「オンラインスナック横丁」をリリース。テレビをはじめとする多くのメディアに出演、企業や地方自治体のスナックイベント監修などマルチに活動中。

横丁とスナックの、
切っても切れない関係

東京にはいろいろな横丁がありますが、どんな横丁にも大抵あるのが「スナック」。五十嵐さんが提唱しているのは、そんなスナックを主役にした「スナックエンターテインメント」です。

「スナックの数は、今急激に少なくなっています。そんななかで、スナックという光を少しでも大きくできないか……、そう考え、さまざまな取り組みを行っています」(五十嵐さん)

五十嵐さんがスナックの魅力にハマったのは、今から10数年前のこと。とあるインターネット旅行サイトを運営する会社に勤めていた五十嵐さんが地方に営業に行った際、たまたま訪れたスナックで、ママとそこに集まる人々の優しさに触れたことがきっかけでした。以来、訪れたスナックは約900軒以上。

「『横丁』は、街の中で人が集まり、行き交う場所ですよね。そのなかにあるスナックは公民館的な場所といいますか、ある意味“公共空間”のような位置付けでは?と思っています。ちょっと身体を休めたり、人と人がコミュニケーションを取る場所、というイメージですね。だからどんな横丁にもスナックが必ずあるのだと思います」(五十嵐さん)

五十嵐さんは2023年から海外観光客向けの「スナックツアー®」をスタートさせていますが、これが非常に好評を博しているそう。

「もともと、新型コロナウィルスの流行下で苦境に立たされたスナックのママさんたちを救うために始めたのが『オンラインスナック』でした。コロナも収束してそろそろやめようかな……と思っていた頃に、海外の方からの申し込みが次々と集まったことがあったんです。どうしてこの人たちはスナックに興味を持ったんだろう?と思ってお話を伺ったところ、『実は今度日本に行くんだけれど、普通の観光地ではなくもっとディープなところ、日本人とコミュニケーションが自然にはかれるようなところに行きたい。そこでスナックに行きたいと思ったんだけど、調べても情報が出てこないから聞こうと思って』と言うんです」

彼らの多くは映画『すずめの戸締まり』や、ゲーム『龍が如く』など海外でも人気がある日本のエンターテインメントコンテンツを通じて、横丁やスナックの存在を知ったのだそう。現在、インバウンドで日本を訪れる観光客の多くが「モノ」消費ではなく「コト(=体験)」消費を求めるようになっていると言われていますが、まさにその変化が表れていたというわけです。

「『日本のいろんな場所に行ったけれど、こういう横丁の雰囲気だったり、スナックでのママや他のお客さんとの一体感は普通の居酒屋やバーでは味わえなかった』、そんな風に言っていただくことが多いです。みんなで楽しく飲んで乾杯してハイタッチして、という体験が、すごく思い出深いものになっているんでしょうね。また、海外にはこういう感じでお店のママが盛り上げたり、ケアしてくれたりするようなお店というのは少ないそうです。『田舎の親戚の家で優しくしてもらっているような気分になる』人もいるみたいですよ」

2024年の夏には、都内の高級ホテルのコンシェルジュからの問い合わせが相次いだそう。東京の“夜”、ナイトタイムエコノミーの新たな選択肢として、横丁とスナックめぐりがじわじわと広まっている模様です。

ただ楽しむのではなく、
東京の横丁の歴史も知ってもらう

五十嵐さんの手掛けるツアーは、新橋や銀座、新宿、原宿、人形町などの東京の横丁や飲み屋街にあるスナックを約3時間ほどかけてハシゴしていくというシステム。大きな特徴は、貸し切りではなく「通常営業しているスナックに参加する」ということです。

「そのため、最初に必ず“スナックとはなにか、どう楽しめばいいか”というレクチャーを行います。参加者が主役であることは間違いないんですけど、あえて言うと“ママ”が主役にならなきゃいけないと私は思っているんですね。同時に、ママのファンである常連さんも、いかに巻き込んで一緒に楽しめるかということを心がけています。でも多くのママたちは外国語は喋れませんから、最初に紙芝居形式で簡単なクイズを出したり、楽しみながらコミュニケーションが取れるような工夫をしています」

そしてもうひとつの大きな特徴は、ただお店で飲むことを楽しむだけではなく、その街や横丁を“知ってもらう”ことを大切にしているということ。

「私たちのツアーって約3時間くらいあるんですが、最初の1時間はそのエリアの横丁や路地を歩くんです。外国人観光客の方たちが求めているのは、赤提灯がぶら下がっている横丁の光景であったり、ビルとビルの間にある路地にお稲荷さんがあるような光景だったりするんです。東京の横丁や路地には、よく小さな神社や祠があるんですよね。調べるとそこには例えば、その路地が昔よく火事になっていて、かつてそこにはお稲荷さんがあったことがわかった。そこで火事をなくすために町の人たちがかつてのお稲荷さんを再建して……という物語があったりする。日本人の生活のなかで、古くからずっと守り続けられてきたものに美しさや魅力がある、そう感じるということをよく伺いますね」

横丁という、古くから続く場所に流れる歴史と物語。これもまた、海外からの観光客の心を引き付ける大きな魅力のひとつなのだとか。

「この三軒茶屋・三角地帯も、私は昔から訪れている大好きな場所のひとつです。今回訪れた「ツキアタリミドリ」さんは比較的新しいスナックなんですが、三角地帯で古くから営業している老舗スナックのなかには美空ひばりさんの親戚の方が営業されているお店があったり、芸能人が集う店があったりと、知る人ぞ知る店が多いんですよ。もちろん古くからの横丁ですから店主の高齢化が原因でお店が空いたところもありましたが、そうしたところに若い店主たちが新しく飲食店を出したり、エリアには若い世代のお客さんも増えていたりする。だからお爺ちゃんお婆ちゃんがいて、若者がいて、日本人がいて外国人がいて……、みたいなカオスな状況が日常的に起こっている、それが魅力です(笑)」

スナック常連外国人が語る
「スナック&横丁のススメ」

今回訪れた三角地帯のスナック「ツキアタリミドリ」では、スナックの魅力にハマってしまった東京在住の外国人の方達が大盛り上がり中! おふたりともカラオケで演歌や少し懐かしめのJ-POPを歌う、かなりの“スナック上級者”です。アメリカ出身のマットさんは来日5年目、最初に仕事で来日した山形県でスナックの魅力を知ったのだとか。

「スナックのおかげで日本語が上達しました(笑)。今は日によって、スナックに行ったり、バーに行ったり、立ち飲み屋に行ったり……ハシゴ酒をすることもよくあります。横丁はその日の気分でいろいろな飲み方を楽しめるのがいいですよね」(マットさん)

イギリス出身のジョンさんは、もともとママのみどりさんが営業している別の居酒屋の常連で、このツキアタリミドリも訪れるようになったそう。お店の常連さんたちとも楽しそうに盛り上がっている姿が印象的でした。

「東京に来たら、ぜひスナックを体験して欲しいですね。いろいろな人と関わることができて、本当に楽しい場所ですよ。僕は大体ひとりでトライすることが多いんだけど、入りづらければ誰か日本人の知り合いに知っているお店を紹介してもらうといいかな。大事なのは、最初に『日本語が喋れなくても入って大丈夫かどうか』を確認すること。それでウェルカムなら、ぜひ足を踏み入れて楽しんで欲しいです」(ジョンさん)

ママの関根みどりさん。外国人も日本人も共通しているのは、ツキアタリミドリのお客さんはみんな“ママのファン”ということ!
お客さんみんなでカンパーイ! この一体感はスナックならでは。
ツキアタリミドリの常連、三角地帯でやきとん屋を営むご主人(中)とジョンさん(右)とマットさん(左)。
レトロな商店街「エコー仲見世」など、さまざまな店が密集する三軒茶屋・三角地帯。迷路感覚で、さまよいたい場所です。

「スナックの本来の価値というのは、ママが繋いでくれる人と人だったり、世代間だったり、そういう“フラットな関係性”が生まれることだと思うんです。そして何より、ママがお客さんの心と体の疲れを癒してくれる、英気を養う場所でもあると思うんですよ」

そう語る五十嵐さん。そんなスナックを擁する東京の横丁に多くの人が訪れるのは必然と言えますし、その魅力は国や文化を超えて伝わるものだということが、横丁やスナックを楽しむ海外からの旅行者の方たちを見ると証明されている気がします。

海外から東京に来たら、夜の観光は「横丁」と「スナック」めぐりで決まり! そんな日が来ているのかもしれません。

撮影協力

ツキアタリミドリ
  • 所在地東京都世田谷区三軒茶屋2-9-16-2F
    Google Maps
  • アクセス下北沢駅徒歩2分、下北沢駅東口より約130m
  • 営業時間19:00〜23:30 ※定休日・営業時間は日によって変動あり。Instagramでご確認ください。
  • HP https://www.instagram.com/greengreenkaraoke_sancha

横丁info

三軒茶屋・三角地帯

三軒茶屋駅周辺の国道246号線と世田谷通りに囲まれた三角形のエリアの通称。多くの居酒屋や飲食店、スナックが軒を連ねます。

  • 所在地東京都世田谷区三軒茶屋2
    Google Maps
  • アクセス東急田園都市線三軒茶屋駅より徒歩2分
  • 営業時間店舗ごとに異なります。店舗に直接お問い合わせください。

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・未成年者の飲酒は法律で禁じられています。お酒は20歳になってから。
・妊娠中や授乳期の飲酒は、胎児・乳児の発育に悪影響を与えるおそれがあります。
・飲酒運転は法律で禁止されています。
・飲みすぎに注意、お酒は適量を。