私たちは「おかたづけ」や「トウモロコシ」を懸命に覚えて、ひと固まりで簡単に言えるように訓練しているのです。そのため言葉の訓練途中の子どもは、「トウモロコシ」を覚えていたとしても、「トウモ」まで声に出した段階で、次の順番を混同し「コロシ」と思わず言ってしまいます。「コロシ」が「殺し」という意味をもつ印象的な言葉であることも、影響しているでしょう。かなり幼い子どもでも「殺し」のような刺激的な言葉は自然と覚えているものです。だから、「ロコシ」という意味のない音の列よりも、印象的な「コロシ」が作業記憶に浮かび上がって、入れかわってしまうのです。

 また「トウモロコシ」の「ロ」と「コ」の発音が似ていること、「おかたづけ」の「か」と「た」や、「メガネ」の「メ」と「ネ」も同様に発音が似ていることも、混同の原因になっています。

 確かに、3つの音ならば、他の言葉と混ざりやすいので、順番を厳しくする意義があります。しかし、5つや6つの音の順番は多少変わっても他の言葉と混ざりにくいので、順番を厳しくする意義はあまりないのです。だから、「トウモコロシ」や「おたかづけ」と言う子どもがいても、意味がわかるのであれば、「何それ!」などと、わざわざ言うほどのことではない、と私は考えます。

 最後に一点、最近こんな体験がありました。静岡県の浜名湖周辺のうなぎ屋さんに入ってメニューを見たら、「ひつまぶし」と書いてありました。「“暇つぶし”ってどんな料理かなぁ」と思わずつぶやいたら、笑われました。名古屋周辺ではよく知られた料理だったのですね。5文字でも順番が変わって混同が起きた例でした。

【今回の結論】私たちは、少ない音の組合せでいろいろな言葉を作って使っている。だから、順番を大事にする必要があるが、それを間違いなく行うために脳の訓練をしているのだ

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石川幹人

石川幹人

石川幹人(いしかわ・まさと)/明治大学情報コミュニケーション学部教授、博士(工学)。東京工業大学理学部応用物理学科卒。パナソニックで映像情報システムの設計開発を手掛け、新世代コンピュータ技術開発機構で人工知能研究に従事。専門は認知情報論及び科学基礎論。2013年に国際生命情報科学会賞、15年に科学技術社会論学会実践賞などを受賞。「嵐のワクワク学校」などのイベント講師、『サイエンスZERO』(NHK)、『たけしのTVタックル』(テレビ朝日)ほか数多くのテレビやラジオ番組に出演。著書多数

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