■ランキングの読み方と病院選び

 ある程度の手術数があれば、どの病院で受けても比較的技術が安定しているという胃がん手術。具体的にどのくらいの数が目安になるのだろうか。

「週1例手術をしていれば技術の保証があるといえるでしょう。コンスタントにおこなっているほうが安心。地方の病院を考慮すると、最低でも年間50例が望ましいです」(河本医師)

 開腹と腹腔鏡では腹腔鏡の割合が年々伸びている。腹腔鏡は主に早期の胃がんに適応が認められているが、進行がんにも適応を拡大している病院がある。そのため、割合は病院によってさまざまだ。週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』に掲載している腹腔鏡の手術数は、その病院が新しい外科治療に取り組む姿勢の目安になると説明するのは長医師。

「新しい治療は未知のリスクを含んでいる可能性があり、単に腹腔鏡の手術件数が多いほどいいというわけではありません。しかし、腹腔鏡手術やロボット手術は、開腹手術の欠点を克服できる可能性があります。腹腔鏡手術をおこなう際は、病院に技術認定医の資格を持つ常勤医がいることが望ましいです」

『手術数でわかるいい病院2020』のランキングの医師名に腹腔鏡の技術認定医の資格の有無も示しているので参考にしてほしい。

 術前術後の化学療法の数も掲載している。術後化学療法はステージII、IIIの標準治療だが、術前化学療法の数は何を表しているのだろうか。

「術前化学療法は、手術単独では治すことが難しい進行がんを、手術前に抗がん剤を投与することでより根治性を上げるためにおこなうものです。胃がんでは一部でしか有効性が証明されていないため、臨床試験としておこなうべきものです。そのため、術前化学療法をおこなっている病院はがん専門性の高い病院と考えられます」(長医師)

 手術数以外の目安は「手術待機時間が少ないこと」だというのは2人の医師共通の意見だ。

「2~3カ月で急速にがんが進行することはありません。しかし、手術までの待機時間が長ければ長いほど患者さんの不安は大きくなります。そこを考えてくれる病院かどうかも大切です」(河本医師)

 術後の経過観察も大事な治療となるがん手術。再発はないかなど、最低でも5年は経過をみる必要がある。よほど難しい症例でなければ、通える範囲で病院を選びたい。また、胃がんの治療方法は手術だけではない。そのため、チーム医療の態勢が整っていることも重要だ。

「一人の医師、ひとつの科でしか診断しないと、他のよりよい選択肢を見逃してしまう可能性があります。カンファレンスによって、適切な治療が選ばれているかが大切です」(長医師)
(文/濱田ももこ)

≪取材した医師≫
都立駒込病院 外科部長(胃) 長 晴彦 医師
倉敷中央病院 外科主任部長 河本和幸 医師

※週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』より