今月20日からはラグビーワールドカップが始まり、来年には東京オリンピックが控えています。国際的なスポーツイベントであるため、当然ながら世界各国から多くの人が日本にやって来ます。ということは、おのおのの国で流行している疾患が日本に持ち込まれる可能性があり、競技場に多くの人が集中することによって感染が拡大する可能性があるということを意味します。国立感染症研究所のGriffith氏らは、麻疹(はしか)や風疹、おたふく、髄膜炎、そしてインフルエンザに特に注意が必要だと言います。

 最後に。今月の3日にとても興味深い調査報告が発表されました。アメリカ疾病管理予防センター(CDC)のLewis 氏らは、2862名の医療関係者を対象に、結核やSARSなどの感染防止に用いられているN95マスクとごく一般的な医療用マスクのインフルエンザ感染予防に対する有効性について調べたところ、なんとインフルエンザの発生率に有意な差はなかったといいます。

 N95マスクとは、塩化ナトリウムエアゾルを試験粒子として95%以上の捕集効率を保証されたマスクのことであり、新型インフルエンザ対策のマスクとして知っている方も多いと思います。粒子の侵入を防げるというだけあって、装着してみると苦しく感じてしまうほどであり、長時間装着するのは難しいと装着するたびに個人的には感じるのですが、今回の調査結果はインフルエンザウイルスを出来うる限り遮断しても予防効果はないことを示しており、予防法の概念を覆す結果であることは間違いないでしょう。

 FDAのゴットリーブ長官も、「FDAが承認したインフルエンザを治療する抗インフルエンザ薬はいくつかあるが、予防接種の代わりにあるものはない」と述べています。これから迎える冬の流行だけでなく、大きな国際大会を控えている今、インフルエンザは予防の必要性が高い疾患の一つと言えるでしょう。

○山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。

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山本佳奈

山本佳奈

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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