「兄が発達障害。自分も遺伝しているかもしれない」という相談に精神科医の答えは?

医療が届かずに悩んでいる方へ 一精神科医の切なる想い

ヘルス

2019/09/05 07:00

 このように、ASDの原因には遺伝的な影響があることは確かですが、決定するものが遺伝だけではないということも重要な事実だと思います。では、同じ遺伝的情報を持っていてもなぜASDになる人とならない人がいるのでしょうか。

 その違いを説明する仮説として環境要因の影響が挙げられています。この環境要因については、長く複雑になってしまうので今回取り上げることはしませんが、障害の発症に対して補助的な影響を及ぼしている可能性は否定できません。(独り歩きしてほしくないという思いがあり、列挙することも控えたいと思いますので、機会があれば改めてご紹介したいと思います。)

「身近な人が発達障害と診断された」といったような困難が現実となったとき、「原因は何だったのか」と考えてしまうのは当然の心理だと思います。しかし、本来それ以上に大切なことは、診断を受けた本人が安心して生活し必要な支援を受けられる環境を整えること。そして、その環境に必要不可欠なご両親や養育者も同様に、不安にかられ悩まれている状況を回避することだと思います。

 統計的なデータを参考にすると、安易な原因探しに利用してしまうおそれもあるかもしれません。しかし、実際に統計データを利用するには、どこでどうやって集めたか、対象は誰か、規模はどれくらいか、など慎重にみなければならず注意を要します。

 現に発達障害の原因は解明されていません。今回のご相談への回答は、Aさんのお悩みを解決するものではないかもしれませんが、読者の皆さまが発達障害の原因を考えたとき、決めつけることなく踏みとどまる一助になれば幸いです。

【引用文献】
【1】Ozonoff Sら. Recurrence risk for autism spectrum disorders: A Baby Siblings Research Consortium Study. Pediatrics. 2011 Sep;128(3):e488-95. doi: 10.1542/peds.2010-2825.
【2】Sumi Sら. Sibling risk of pervasive developmental disorder estimated by means of an epidemiologic survey in Nagoya, Japan. J Hum Genet. 2006;51(6):518-22.
【3】Xu Gら. Prevalence of Autism Spectrum Disorder Among US Children and Adolescents, 2014-2016. JAMA. 2018 Jan 2; 319(1): 81–82.
【4】 Liu Xら. Idiopathic autism: Cellular and molecular phenotypes in pluripotent stem cell- derived neurons. Mol Neurobiol. 2017 Aug; 54(6): 4507–4523.
【5】Colvert Eら. Heritability of autism spectrum disorder in a UK population-based twin sample. JAMA Psychiatry. 2015; 72: 415–423.
【6】Hallmayer Jら. Genetic heritability and shared environmental factors among twin pairs with autism. Arch Gen Psychiatry. 2011; 68: 1095–1102.

大石賢吾

大石賢吾

大石賢吾(おおいし・けんご)/1982年生まれ。長崎県出身。医師・医学博士。カリフォルニア大学分子生物学卒業・千葉大学医学部卒業を経て、現在千葉大学精神神経科特任助教・同大学病院産業医。学会の委員会等で活躍する一方、地域のクリニックでも診療に従事。患者が抱える問題によって家族も困っているケースを多く経験。とくに注目度の高い「認知症」「発達障害」を中心に、相談に答える形でコラムを執筆中。趣味はラグビー。Twitterは@OishiKengo

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