千葉大学病院・精神神経科特任助教の大石賢吾医師が、認知症、発達障害に関するあなたの悩みにおこたえします! あらゆる人間関係、組織のなかで、相談者や家族の身に起きている事態をお聞かせください。採用されたご相談は本連載で紹介します。
千葉大学病院・精神神経科特任助教の大石賢吾医師が、認知症、発達障害に関するあなたの悩みにおこたえします! あらゆる人間関係、組織のなかで、相談者や家族の身に起きている事態をお聞かせください。採用されたご相談は本連載で紹介します。
※写真はイメージです(写真/Getty Images)
※写真はイメージです(写真/Getty Images)

 兄が発達障害の一つ、自閉症スペクトラム障害と診断されたら、「自分も兄と同じ病気なのかもしれない」という不安を抱くことでしょう。千葉大学病院精神神経科特任助教の大石賢吾医師が、発達障害と遺伝についての相談に答えます。

【20代男性Aさんからの相談】自閉症スペクトラム障害の兄がいます。自分は高校から実家を離れたのですが、以前は突然きっかけがわからず叫び出したりして大変でした。最近は仕事が忙しくて実家にもなかなか帰れず、兄と直接会う機会もないので詳しい様子はわからないのですが、仕事に就くのは難しく実家で両親と暮らしているようです。そこでご相談なのですが、実は、小さい頃から「自分も同じようなところがあるんじゃないか」と心配でたまりませんでした。両親や周りの友達は大丈夫と言ってくれるんですけど、もしかしてと思ってしまいます。やっぱり、遺伝するんでしょうか。

*  *  *

「自分も兄と同じ病気なのかもしれない」

 大丈夫だとは思いつつも、気になり始めると完全には否定することもできず不安になってしまうことと思います。Aさんのようにお兄さまが実際にASD(自閉症スペクトラム障害)と診断されているとすればなおのことでしょう。当然ですが、AさんがASDに該当するかどうか推し測ることはできません。

 ASDとされる人は、場の空気を読んだり、相手の気持ちを感じとったりすることを苦手とします。加えて、自分が親しんだものや環境、行動パターンを好み、状況に応じて臨機応変に対応することに困難さを伴うことがあるため、柔軟さに欠ける印象を持たれることがあります。

 本コラムは教科書的な情報を発信することを趣旨としていないので、今回のようなご相談への回答は控えるようにしていました。診療の現場では、ASDを含む発達障害の原因について、理解が十分でないと感じることもあります。

 ときに、その不十分さから、ご両親や養育者に対して「発達障害になったのは親のせいだ」「育て方が悪いから発達障害になったんだ」といったような、非難が向けられてしまっているケースを経験します。

 よって、今回はAさんのご相談にお答えすることで、生じてしまっているかもしれない理解のずれを見直すきっかけになればと思い、ASDを例に発症にまつわる話を少し取り上げてみたいと思います。

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大石賢吾

大石賢吾

大石賢吾(おおいし・けんご)/1982年生まれ。長崎県出身。医師・医学博士。カリフォルニア大学分子生物学卒業・千葉大学医学部卒業を経て、現在千葉大学精神神経科特任助教・同大学病院産業医。学会の委員会等で活躍する一方、地域のクリニックでも診療に従事。患者が抱える問題によって家族も困っているケースを多く経験。とくに注目度の高い「認知症」「発達障害」を中心に、相談に答える形でコラムを執筆中。趣味はラグビー。Twitterは@OishiKengo

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ASDの遺伝性