まず、Aさんからの「ASDは遺伝するのでしょうか」というご相談に端的にお答えすると、これまでの研究から遺伝的要因が存在していることは明らかと思われるものの、それだけが原因ではないとする研究結果もあるのが現状です。今回は、ご相談頂いたASDの遺伝性に着目して説明したいと思います。

 アメリカとカナダの12施設(偶然ですが、私の母校カリフォルニア大学デービス校も)が協力・調査した統計では、ASDの姉または兄を持つ赤ちゃんを対象にするとASDが起こる確率は高いことが報告されています (引用1) 。

 具体的に、新生児がASDとなる可能性は、ASDである1人の姉または兄を持つ場合13.5%、2人以上を持つ場合32.2%と報告されています。日本で行われた同様の調査では、10%程度と報告されたものがあります(引用2:2006年の調査で正確には対象がASDではないですが)。アメリカの一般人口ではASDとなる確率が2.47%(引用3)と報告されているので、これらの確率は大きいことは確かだと考えられます。

 よって、(20代で周囲のみなさんが「大丈夫だ」と言ってくれていることを考慮せず遺伝的な側面のみからお話しすると)Aさんの状況としては「一般的な人と比べてASDとなる確率は高い」と判断することができそうです。

 しかし、一概に遺伝が全てかと問われるとそうではありません。最近では、科学技術の進歩によって、以前より比較的容易に病気の原因になりそうな遺伝的異常を探索できるようになってきています。実際に、ASDの発症に影響しそうな異常を探す研究は積極的に行われていて、候補となる遺伝的異常は500以上(引用4)もありますが結論には至っていません。

 また、ASDの遺伝性を論じるうえでよく紹介されるのが、一卵性の双子を対象とした調査の結果です。遺伝的には同一とされる一卵性双生児ですが、「1人がASDになったら、もう1人もそうなるのか」と問われると、必ずしもそうではありません。双子がいずれもASDである確率をみると、高いものでは94%という調査結果(引用5)もあるものの、より規模の大きい調査では43~59%程度(引用6)と開きがあり、一致した見解は得られていません。

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ASDは遺伝だけで決まるものではない