夫婦間のマウンティングは、大きなストレスを生むこともある。カップルカウンセラーの西澤寿樹さんが夫婦間で起きがちな問題を紐解く本連載、今回は「上から目線」について解説する。

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「妻の上から目線に耐えられなかった」と、妻を殺して死体を切断したという凄惨な事件が報道されました。神奈川県平塚市の海岸で両足の太ももから下がない女性の遺体が見つかり、自首してきた夫が逮捕され、そう話したそうです。「こんなことが、人を殺す理由になるのか?」というショックは、多くの方が感じることだと思います。

 しかし私は、日々、パートナーから「上から目線」で見られていて、そのたびに殺意を感じるほどに腸(はらわた)が煮えくり返り、自分がおかしくなりそうだとか、消えてしまいたくなる、というご相談を受けることがあります。

 40代の伸宏さん(仮名、技術営業)は、うつむき加減で絞り出すようにおっしゃいました。

「妻は、いつもいつも上から目線なんです。もうそれに耐えられないので、一旦別居したいと言っているんですが、妻が受け入れてくれなくて……」

 妻の彩花さん(40代、仮名、派遣・事務職)が、すかさず割り込みます。

「いつもってなによ。朝起きてから寝るまで上から目線だっていうの? あなた理系なのに、そんな漠然とした言い方しかできないの? 別居を受け入れて欲しいなら、私を納得させるように頑張るべきでしょ」

 伸宏さんの表情が一瞬でこわばり、

「その言い方が上から目線だっていうんだよ!」

と少しどなり気味に言いましたが、彩花さんは怯みません。

「私は正論を言っているだけでしょ。正しいことを言われたのに、考えようともしないで、ただ声を荒げて怒鳴るのって、幼稚園生と変わらないじゃない。大人としてどうなのかしら」

と、最初からこんな感じです。2人が話すままにしておけば、ずっと続きそうなので、ちょっと割り込んで聞いてみます。

「伸宏さん、今どんな感じですか?」

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西澤寿樹

西澤寿樹

西澤寿樹(にしざわ・としき)/1964年、長野県生まれ。臨床心理士、カウンセラー。女性と夫婦のためのカウンセリングルーム「@はあと・くりにっく」(東京・渋谷)で多くのカップルから相談を受ける。経営者、医療関係者、アーティスト等のクライアントを多く抱える。 慶應義塾大学経営管理研究科修士課程修了、青山学院大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程単位取得退学。戦略コンサルティング会社、証券会社勤務を経て現職

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「体が震えてくる」極限のストレス状態