事実、われわれ医者たちは、長い間患者にそう指導していた。「卵を食べすぎないように、でないとコレステロールが高くなりますよ」と。

 しかし、実際にメタ分析という方法で複数の研究を検証してみた。すると、卵を食べるとたしかにコレステロールは上がるのだが、健康に影響するほどではなく、心筋梗塞などコレステロールがもたらす病気は増えないことがわかったのだ(Rong Y et al. BMJ. 2013 Jan 7;346:e8539)。

 平たく言えば、「卵をたくさん食べても健康に害はない」ということだ。これを受けて、ガイドラインでも卵を食べることについての制限事項は取り払われた。卵料理の好きな人たちは大いに安心したことだろう。このように、人間の体はわれわれが想定する理論通りにはできていないことも多いのだ。

 コレステロールの多い卵を食べるとコレステロールは上がる……こういう考え方を「演繹法」という。本当にコレステロールが上がるか、卵を食べて検証してみよう……これを「帰納法」という。

 医学の世界では演繹法と帰納法の両方が大事で、片っぽうだけではよくない。演繹法だけで帰納法が抜けていると、「机上の空論」になりがちだ。

 多くの食品が「体によい」とされている。しかし、そのほとんどが動物実験などを根拠とした演繹法による理論だ。実際に帰納法で検証されているものはごくわずかだ。特定保健用食品のほとんどが、病気の予防や軽減効果が示せていないのはそのせいだ。

 卵のように、理論的には健康に悪いと思われても、検証してみるとそうでもないことがある。逆に、理論的には健康によいと思われていても、実際に検証すると、そういうものが逆に健康によくないことも珍しくない。

 われわれが賢い消費者になり、健康に役立つ食品情報が欲しければ、演繹法と帰納法の両方から医学的検証がなされているか、確認しないといけない。

 もうひとつ大事なことがある。それは、検証は第三者が行わねばならない、ということだ。 栄養食品を作っているメーカーは、そりゃ「うちの商品は体によいです」と宣伝するに決まっている。

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