例えば、Aという物質ががんの予防に役に立つかもしれないという研究成果が、例えばネズミの実験で得られたとしよう。しかし、それは私達にとって「一番近接した、関連性の高い」情報とはいえない。

 同じ哺乳類とはいえ、マウスと人間ではあまりに違いすぎるからだ。マウスに起きることが、人間に起きるとは限らない。事実、マウスの実験で示された薬効が人を対象とした臨床試験で否定されたり、毒性が強すぎて実用に耐えなかったりという事例は事欠かない。

 細胞や動物を使った実験よりも人を対象とした臨床試験のほうがよりわれわれに「近接して」いる。そういうデータをより優先させて活用するというのがEBMだ。

 では、Aが(人の)がんの予防に役に立つことを示すにはどのような臨床試験をすればよいのだろう。それは、比較することだ。Aを取っている人とそうでない人を比較し、何年も比較し続け、がんになる人の数を比べるのだ。

 Aを取っているグループのがんの発生率が、取っていないグループよりもずっと少なければ、Aががんの予防に役に立つと分かる。比較をしなければ、Aに薬効があるかどうかはわからない。

■生活習慣に喫煙率……

 ただし、話はそうは簡単ではない。なぜなら、Aを取っているグループのほうがずっとがんになりにくい人たちかもしれないからだ。Aががんの予防に役に立つのではなく、Aを取っている人の体質が取っていない人のそれとは違っていたのかもしれない。

 もしかしたら、生活習慣に大きな違いがあったのかもしれない。例えば喫煙率とか。

 すると、Aを取っているグループと、取っていないグループには「A」という要素以外は全く差がない、そういう状況を作り上げる必要がある。いったい、どうやったらそんな環境ができるのだろうか。

 一番よいやり方は、「ランダム化」だ。ランダムに被験者を振り分ければ、両群の性質はそう違いはなくなってくる。だから、乱数表を使って、被験者を「Aを取る群」と「Aを取らない群」にランダムに振りわける。そしてたくさんの参加者を募る。なぜなら、3人とか5人しか参加者がいない場合は、「まぐれ」の可能性があるからだ。

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健康の実証にはたくさんのデータが必要