サイコロを3回振って、全部3が出たとしよう。このサイコロはいかさまで「3が出やすい」サイコロといえるだろうか。そうとは限らない。単なるまぐれで3が続けて出ることだってあり得るからだ。

 では、3回ではなく、100回サイコロを振ってみよう。そのうち99回3がでた。どう考えても、これはイカサマサイコロ(特に3が出やすいサイコロ)と考えるべきだ。このように科学的な検証をするときは「まぐれ」を排除するためにたくさんの参加者が必要になるのだ。

 こうして、「マウスでは効果がある」とされているAが本当に人間にも効果があるかを検証するのだ。動物実験よりも人の臨床試験。それは比較が必要で、ランダム化が必要で、たくさんの参加者が必要だ。

 ただし、飲食物と健康の調査は、それでもなかなか難しい。たくさんの人を集めて食事をずっと管理するのは現実的ではないし、被験者も疲れたり飽きたりして、試験からドロップ・アウトしてしまうかもしれない。

 そこで、現実的な次善の策として「後ろ向き研究」というのをやることもある。

 後ろ向き研究とは、過去の食事のパターンを調べ、Aをたくさん取っている人と、取っていない人のがんの発生率を調べるのだ。この場合は「喫煙」のような他の要素がジャマをすることがあるから、テクニックを使ってそういう別の要素を調整する。完璧とはいえない方法だが、現実的で実行しやすい検証だ。

 多くの飲食物が「健康によいかもしれない」可能性を秘めている。細胞や動物の実験がそれを示唆している。しかし、大切なのは人間での検証・実証だ。これがなされていないと、ただの「机上の空論」に終わってしまう。そして机上の空論は案外間違っているのだ。

■メタ分析でわかった「卵をたくさん食べても健康に害はない」

 卵にはコレステロールがたくさん含まれている。だから、卵を食べると血中のコレステロールが上がる。理屈で考えるとそうなる。その理屈を根拠にすれば、「コレステロールを上げないためには卵を食べすぎないほうがよい」となる。

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卵は1日何個までOK? 臨床試験でわかったこと