この時期、学力的に中下位層までが進学者に含まれるようになったが、その学力層の高校生を受け入れたのは、おもに新設の私大だった。大学は経営上の事情からも、学力に応じた教育を提供し、学生たちを卒業させていった。日本の卒業率の高さの理由である。

 欧米では出身大学に関わらず、大卒は高卒には期待できない知識や能力を持っていると見なされる。単位を積み重ねて卒業したことが、能力の証明となっているのだ。しかし、日本では学力水準別に各大学が学生をリクルートし、学力水準に応じた教育を与えて、大部分を卒業させる。その結果、大都市圏では学力(偏差値)レベル別に、ピラミッド状に大学は序列化されている。

 企業側はどう対応したか。60年代から70年代にかけて、多くの企業は指定校制度を利用し、特定大学の卒業見込み者を囲い込んだ。90年代以降は、あからさまな差別を避けつつ、大学名によって応募者をスクリーニングにかけて絞り込むようにしてきたのだ。

■企業との連携を始めた地方大学

 地方都市の大学は、そのような世界から、ある程度の距離を保っている。大学と高校生あるいは企業とは、偏差値という抽象的な数値を媒介とした関係ではない。歴史が古かろうが、目新しい学部構成であろうが、地域の人々に支持されない大学は、志願者を集められずに定員割れしている。大都市圏では偏差値序列の底辺から定員割れが始まっているが、それとは様相が異なる。

 歴史が浅くても、地域に密着して確実に教育・研究の成果をあげている大学は、一定の学力層の学生を集めて安定した経営をしている。地域の企業や官公庁などとの繋がりを積極的につくって、信頼関係を醸成している松本大や共愛学園前橋国際大は、その良い例だ。いずれも00年前後に開設された新しい大学だ。地方大学は一般的に小規模であり、機動力がある。その成否は、学長を始めとする教職員の意識次第である。

小川洋(おがわ・よう)
東京都生まれ。早大一文卒業後、埼玉県立高校教諭。並行して国立教育政策研究所の研究協力者として、日本の高校教育とアメリカ・カナダの中等教育との比較研究を行う。2003年、私大に移り教職科目などを担当。16年退職。以後、教育関連の研究・執筆活動。主な著書に『地方大学再生』(朝日新書)など。