文科省による定員超過抑制策の強化で、大都市圏の私大入試は激戦となっており、とくに中堅私大の偏差値上昇が著しい。一方、地方大学に目を向けると、私大はもちろん、国公立大学でも学生集めに苦労している学校が少なくない。だが、教育ジャーナリストで『地方大学再生』(朝日新書)の著者・小川洋氏によると、地方大学は偏差値では見えない価値があり、それを見えにくくしているのは日本特有の雇用システムにあると指摘。労働と社会の関係が変わろうとしている今、学校選びの指針になるものとは何か、語ってもらった。

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■日本の大学卒業率は「異常」

 多くの先進諸国で、20世紀末から大学進学率が大きく上昇してきた。産業の高度化にともない、安定した職に就くには大学卒業が不可欠になっている。日本を含め、多くの国では5割を超えている。ただ日本には、他国に見られない特徴がある。進学率の上昇が2段階で進んだことと、卒業率の異常なまでの高さである。進学率は60年代に一度、大きく上昇し、10年余りで25%程度まで上昇した。二回目は、バブル崩壊後の90年代から20年ほどの間で、5割を超えた。

 日本の大学卒業率は、90%程度と推計されている。中退理由は、経済的事情がもっとも多い。フランスの学士課程(3年間)では、毎年半数が脱落すると言われ、卒業率は4分の1以下である。アメリカでは有力私大では9割以上となるが、入学のハードルの低い州立大学では5割以下とされる。フランスは授業料が無料であり、アメリカの州立大学も州民の授業料は比較的安い。授業についていけないことが、おもな中退理由となる。

■バブル崩壊が雇用システムを破壊

 日本の特殊性を理解するには、新卒一斉採用という雇用慣行が鍵となる。60年代は、高度経済成長により大卒の採用が急激に拡大した。所得水準の向上した家庭では、子どもに新卒採用の機会を与えるべく、男子を中心に大学に進ませた。その社会層からの進学者が一段落すると、80年代までの十数年間、進学率は多少低下さえした。

 二度目の進学率上昇は、バブル崩壊が高卒者の雇用システムを破壊したことによる。高校生の就職は、企業、職業安定所(現・ハローワーク)、高校の3者によって厳格に管理されていた。バブル崩壊により、企業は一斉に高卒者の雇用を縮小させ、そのシステムに壊滅的なダメージを与えた。高校生は、悪化する雇用環境のなか、少しでも良い雇用にたどり着くために大学に進んだ(図)。

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日本の卒業率の高さの理由とは?