淡雪残る北陸路を快走する「雪月花」。神社の鳥居を連想させる銀朱色という艶やかな色彩、おおらかかつ、ふくよかな丸みを帯びたグラマーな車体、なんて美しい列車なのだろう。紛れもない越後美人トレインである(写真/櫻井寛)
淡雪残る北陸路を快走する「雪月花」。神社の鳥居を連想させる銀朱色という艶やかな色彩、おおらかかつ、ふくよかな丸みを帯びたグラマーな車体、なんて美しい列車なのだろう。紛れもない越後美人トレインである(写真/櫻井寛)
「雪月花」の1号車客室を運転室背後の展望ハイデッキから撮影する。脚立や椅子などに上っているわけではなく、私の目線から見た客室とアテンダントの関さんである。床から天井まで実に2メートル60センチ。「雪月花」の天井はかくも高い。さらに窓ガラスも国内最大級の大きさを誇る。もちろん紫外線透過率0.01%以下というUVカットガラスなので安心(写真/櫻井寛)
「雪月花」の1号車客室を運転室背後の展望ハイデッキから撮影する。脚立や椅子などに上っているわけではなく、私の目線から見た客室とアテンダントの関さんである。床から天井まで実に2メートル60センチ。「雪月花」の天井はかくも高い。さらに窓ガラスも国内最大級の大きさを誇る。もちろん紫外線透過率0.01%以下というUVカットガラスなので安心(写真/櫻井寛)
直江津駅のホームで駅弁「鱈めし」を販売する山崎屋(ホテルハイマート)の下井道夫さん。なおホームでの立ち売りは「雪月花」停車時間中のみ(写真/櫻井寛)
直江津駅のホームで駅弁「鱈めし」を販売する山崎屋(ホテルハイマート)の下井道夫さん。なおホームでの立ち売りは「雪月花」停車時間中のみ(写真/櫻井寛)

 世界95カ国の鉄道を取材したフォトジャーナリスト・櫻井寛が見惚れた列車を紹介するアサヒカメラ連載「ぞっこん鉄道」。今回は、えちごトキめき鉄道「雪月花」を紹介する。

【「いらっしゃいませ!」と笑顔で迎えてくれた「雪月花」のアテンダントはこちら】

*  *  *

 私事で恐縮ながら、わが故郷は長野である。今でこそ、いい故郷だと思っているが、子供の頃は長野が嫌いだった。理由は「海」がないから。小学6年生の遠足で新潟に行き、生まれて初めて日本海を見たときには鳥肌が立つような感動を覚えた。地引き網で大きな魚やカニやサザエなどがあがり狂喜乱舞した。このまま新潟に住みたいと憧れたものだ。その願望は今も残っている。なぜなら、長野には今も海がないからだ。

 そんなわけで、今でも新潟と聞くと、うまそうでうらやましい。北陸新幹線開業により発足した「えちごトキめき鉄道(以下、トキ鉄)」に「グルメ列車『雪月花(せつげっか)』デビュー」のニュースを見て、私の心もトキめいた。早速チケットを手配し北陸新幹線「はくたか」に飛び乗り上越妙高駅に降り立ったのである。

 午前10時、銀朱色という艶やかな色彩に身を包んだ優雅な列車が入線した。「雪月花」である。なんて美しい列車なのだろう。紛れもない新潟美人だ。私はもう乗車前から一目ぼれ。

「いらっしゃいませ!」

 新潟生まれの美人アテンダントに迎えられ車内へ。外観も素晴らしかったが、車内の広々していること。窓ガラスは床から天井まで続く巨大なパノラミック・ウィンドーで天井がすこぶる高く感じられるがなんと2メートル60センチ。一般的なJRの車両が2メートル27センチなのだから30センチ以上も高い。

 10時19分、「雪月花」は上越妙高駅を発車した。まずは「妙高はねうまライン」を経由し新潟県で一番標高の高い妙高高原駅を目指す。ここで折り返し、直江津駅からは「日本海ひすいライン」に転じて日本海岸を快走し、糸魚川駅に13 時18分に到着するおよそ3時間のグルメ旅行である。

 往路の食事は新潟県出身でミシュラン二つ星レストランのオーナーシェフ飯塚隆太氏監修によるフランス料理「雪コース」の3段重。一方、糸魚川駅発の復路は、糸魚川市で200年以上の歴史を誇る老舗日本料理店「鶴来家」5代目主人、青木孝夫氏による「月コース」である。

内容は新潟の山海の珍味が中心だが、驚くべきことは、この列車には、「Made in NIIGATA(新潟県製)」のエンブレムが輝いている。車両は「新潟トランシス」製、エンブレムやカーテンの留め金などの金属は銀器で名高い燕三条製、クルーは全員新潟生まれ、当然、食材も新潟産という、徹底したオール・メイド・イン・新潟なのだ。

 長野県人の私としては嫉妬と羨望の「雪月花」なのである。

※「アサヒカメラ」3月号から