ピンときた。ああ、事故物件か。強盗だとしたら、防犯面で問題があるマンションと考えられ、また狙われると困る。でも病死や自殺なら、私たちにもにも関係ない。

「強盗ですか? そうじゃないなら自殺か怨恨ってことですね」

 聞くと同じ建物の別の階の部屋で、2件の“事故”が起きていた。部屋が違うからなのか詳細は教えてくれなかったが、後でネットで調べてみると、飛び降り自殺が1件と怨恨と思われる殺人事件が1件ヒットした。内見しても違和感は無い。それどころか猫が大好きな日当たりの良い広々した部屋。そこに決めた。

 不動産屋の店員が契約内定を電話で事務所に伝えると、先輩らしき人の驚いた声が電話口から漏れ聞こえてきた。

「あんた、アレ言ったの!? 2件だよ、2件!!」

 絶対に決まるはずのない物件だと思われていたのだろう。しかし、女性はあっけらかんと言う。

「事故物件でも私にとっては全然問題が無いんです。夜中に変な音とかもしないし、猫も私たちも元気に暮らしてる。お隣りさんも犬や猫を飼っているから、毛が生え変わる時期もお互い様。すごく快適です」

 不動産・住宅サイト『SUUMO(スーモ)』を運営するリクルート住まいカンパニーによると、首都圏(東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県)の賃貸物件数は186万4千件(2月18日現在)。そのうちペット飼育可の物件は約15%、28万2千件だった。

「10年ほど前から、賃貸でもペット可の物件は増えてきていますが、猫が飼える物件はまだかなり限られています」

 そう話すのは、さくら事務所の不動産コンサルタント、土屋和馬さんだ。

「ペットが飼える物件のうち、半数以上は猫NGと考えていいと思います。最大の理由は爪とぎ。部屋の障子や襖、壁紙でもつめとぎをしてしまうので、犬などほかの動物と比べても補修費がかなり高額になってしまうのです。さらに、大家さんにとっては退去後に敷金の返還額などで賃借人ともめたり、交渉したりする可能性があるということ自体も手間に感じ、事前に避けようとするわけです」

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敷金・賃料はこれだけ上がる