凡百のロック音楽とは一線を画するものであった(写真:getty images)
凡百のロック音楽とは一線を画するものであった(写真:getty images)

『戦国武将を診る』などの著書をもつ日本大学医学部・早川智教授は、歴史上の偉人たちがどのような病気を抱え、それによってどのように歴史が形づくられたことについて、独自の視点で分析。今回は、革新的な楽曲を世に送り出した伝説のバンド「クイーン」のヴォーカリスト、フレディ・マーキュリーを「診断」する。

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 西洋音楽は、18世紀に大バッハが調性と対位法を確立し、19世紀にモーツァルトやベートーヴェン、ブラームスを経てブルックナー、マーラーといった巨匠の時代に至り、現代は表現の限界まで来たようである。調性を捨てたヒンデミットやアルバン・ベルクなどは「通」の音楽であり、多くの人々の共感を得たとはいいがたい。後世の人々は20世紀前半を支配した音楽はジャズであり、後半はロックンロールと評価するだろう。後者の代表であるビートルズとクイーンが、17世紀の天才ヘンリー・パーセル以来、名立たる作曲家がいなかったイギリスに輩出したことは大変興味深い。

 クイーンのヴォーカリスト、フレディ・マーキュリー(本名ファルーク・バルサラ)は1946年9月5日、当時イギリス領だったタンザニアのザンジバル島に生まれた。幼いうちに家族と共にインドに移り、ボンベイ近郊の寄宿制のハイスクールで教育を受けた。国籍はイギリスだが政府の役人だった父親はインドとペルシャの血を引いており、彼は異文化と多様な価値観を広く受け入れて育った。

 音楽的にも早熟で、5歳から叔母にピアノのレッスンを受け、寄宿学校時代には学生ロックン・ロールバンド「ザ・ヘクティクス」でピアノとヴォーカルを担当し、人気者となった。18歳の時に一家はイギリスに帰り、フレディはイーリング・アート・カレッジに進学。大学ではグラフィック・デザイン学びつつ、60年代のロック・ムーヴメントに影響されて音楽活動を開始した。

 当初はジミ・ヘンドリクスのブルース・ロックに強い影響を受けたが、学友ティム・スタッフェルがヴォーカリストをしていたバンド「スマイル」のメンバー、ブライアン・メイとロジャー・テイラーとともに独自の音楽世界を切り開いていった。彼らの新しいバンド「クイーン」はクラッシックやジャズを基礎として音楽的な完成度を高めたうえで、舞台ではニジンスキーのパロデイーやマイクスタンドを振り回すアクションなどが評判となった。

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早川智

早川智

早川智(はやかわ・さとし)/1958年生まれ。日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授。医師。日本大学医学部卒。87年同大学院医学研究科修了。米City of Hope研究所、国立感染症研究所エイズ研究センター客員研究員などを経て、2007年から現職。著書に戦国武将を診る(朝日新聞出版)など

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