「歴史は繰り返す」といわれるが、それから3年後の85年7月30日の西武vs阪急(西宮)でも、3つのエラーでダイヤモンド1周という珍事が起きた。今度は送りバントではなく、時間差のトリプルエラーが生んだ珍事だった。
5回に3点を勝ち越し、5対2とリードした西武は6回、先頭の2番・金森永時が二ゴロエラーで一気に二進。直後、捕手・藤田浩雅のけん制悪送球に乗じて、三塁に進んだ。
さらに金森は次打者・田尾安志の一ゴロで本塁を狙う。タイミングはアウトだったが、藤田が落球したため、セーフに。結局、計3つのエラーでダイヤモンドを1周し、ラッキーな6点目が記録される珍事となった。
この回、1イニング3失策とボロボロに乱れた阪急は、終わってみれば3対12の大敗。当然の結果と言うべきか。
チャンスに三重殺打、守っては満塁の走者一掃のトンネルというアンラッキーの二乗のような事態が起きたのが、99年5月27日の阪神vs中日(富山)。
前日の直接対決に5対1と快勝し、首位・中日に0.5ゲーム差に迫った阪神は、連勝すれば、中村勝広監督時代の93年5月22日以来2197日ぶりの首位に浮上するとあって、選手はもちろん、ファンも気合が入っていた。
だが、1回表、阪神は坪井智哉、和田豊の連続安打で無死一、二塁の先制機に、3番・新庄剛志がサード・ゴメス正面のゴロ。ゴメスはすかさず三塁ベースを踏み、二塁、一塁と転送。あっという間にスリーアウトチェンジになった。この日までセ・リーグでは松井秀喜(巨人)と2人だけ併殺打ゼロを続けていた新庄がまさかの三重殺打……。これだけでも信じられないような話なのに、0対2とリードされた3回1死満塁のピンチで、さらなる悪夢が襲ってきた。
5番・立浪和義が中前安打。雨に濡れたグラウンドの水気をたっぷり吸いこんだボールが急加速していたのが不運だった。さすがの名手・新庄も対応できず、後逸してしまった(記録は安打とエラー)。
この間に走者3人が相次いでホームインし、三塁まで進んだ立浪も次打者・山崎武司の犠飛で生還。決定的な4点を許してしまう。
これに対し、阪神は0対7の6回に新庄の左越え2ランで反撃の狼煙を上げたが、終盤の粘りも一歩及ばず、6対7で惜敗。
試合後、新庄は「僕のせいでゲームを落としてしまったようなもの。今日は全部ダメ」と目を真っ赤にした。5月の月間MVPに輝き、この日も5打数3安打を記録したのに、めぐり合わせが悪すぎたとしか言いようがない。
だが、「負けはしたが、希望が持てる。そんな気がする」という野村克也監督の言葉どおり、阪神は6月9日、中日と同率で並び、翌10日に1日天下ながら単独首位に立つなど、前半戦を盛り上げた。
●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。