今は、事務仕事のパートを週1~2回しながら、不妊当事者の支援団体NPO法人Fineが運営するおしゃべり会のボランティアをしている。

 広田さんが治療をしていた当時より、「妊活」という言葉ができて不妊治療の認知はされて来ているが、未だに多くの当事者が「不妊治療していることを夫以外に言えない」と話しているという。当事者の気持ちは理解されず、置き去りにされたままだと広田さんは語る。

「産んだ人にはサポートがいっぱいある」という制度への不満の声も当事者から多く聞かれる。出産にたどり着くまでが大変なのに、そこまでのプロセスには支援のスポットライトが当たらない。そこを何とかして欲しいという声だ。

 企業の対策はまだまだ遅れているが、なかには対策を講じている企業もある。日本航空株式会社(JAL)では、2016年4月より不妊治療休職制度を導入した。体外受精と顕微授精といった高度な不妊治療が対象で、1年間の無給休職となる。

 制度の導入から2年が経ち、利用者は約30名。1年間の休職では残念ながらお子さんを授からずに復職した社員もいるが、「1年間治療に専念できてよかった」という声もあるという。1年間治療に専念できたという納得感は、当事者にとって大事なことだろう。

 現在、5.5組に1組は不妊治療をしていると言われ、その数は職場が何らかの対応をしなければならない割合となってきている。まずは不妊治療していることを職場に言えないという状況をなくすことが第一歩だ。そのためには管理職の教育は必須で、知識がないことから起きてしまうプレ・マタハラを未然に防ぐ必要がある。

 不妊治療する女性は中堅層の40歳前後が多く、そのような貴重な人財が辞めていくのはもったいない。少子高齢化で人財確保が難しくなるのなら、キャリアを継続して長く働き続けてもらえるよう、個別のニーズを満たす対策を取ってもらえたらと思う。(文/小酒部さやか)

小酒部さやか(おさかべ・さやか)/株式会社natural rights 代表。自身がマタハラを受けた経験から2014年にNPO法人マタハラNetを設立、2015年にアメリカ国務省の「国際勇気ある女性賞」を日本人で初めて受賞。著書に「マタハラ問題」(筑摩書房)、「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」(花伝社)