男女雇用機会均等法第9条では「婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止」を定めているため、妊娠すれば、解雇や退職強要などの不利益扱いから守られる。しかし、妊娠するか定かではない不妊治療中は法律の適用範囲になく、「不妊治療より仕事を優先して欲しい」「不妊治療するなら契約社員になったらどうか」などといったプレ・マタハラが起こっている。

 不妊当事者の支援団体NPO法人Fineが実施した調査(2017年10月5日発表/有効回答5,526件)では、不妊治療と仕事の両立は難しいと答えた人のうち4割が転職や正社員から非正規社員への転換といった働き方を変えざるを得なかったと回答。そのうち半数が退職を選択したことが分かった。

 その背景に、不妊治療はいつまでという期限の終わりが分からないことがある。「あと3ヶ月ですから」と条件を提示して会社と交渉することができない。また、職場における不妊治療に対する正しい理解や知識がないことから、そもそも治療していることを職場に言えない実態がある。

 前出の広田さんもその一人だ。当時、妊娠している女性教諭は2名いたが、同じ女性にさえ、自分が不妊治療をしていると話したところで理解してもらえないと思ったという。どんな治療を受け、どんな苦痛を伴うのか。たとえば強い排卵誘発剤を使ったあとは、吐き気や下痢が続き、人によっては点滴や入院が必要な場合もあるといったことを知識のない相手に伝える気にはとてもなれなかった。また、自然妊娠できる人に比べ、自分が人として劣っているように思われるのも嫌だった。

 厚生労働省は月経周期ごとの通院日数の目安を、検査で最低4日間、人工授精で2~6日、体外受精で4~10日+2日としている。広田さんは体外受精と顕微授精を行った。治療に失敗すると落ち込み、止めようとは思わなかったが、次の治療まで時間がかかることが多く、長いと1年くらい期間を開けたりすることもあった。結局、最終的に子どもは得られず、46歳で10年にわたる治療を終えた。

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「産んだ人にはサポートがいっぱいある」のに