佐々木の分かりやすい凄さは、やはりそのスピードだろう。1回裏の初球、いきなり自己最速に並ぶ153キロをマーク。立ち上がりの緊張感からか、ボールが上ずり先頭打者にはストレートの四球を与えたものの、そのボールは全て150キロ以上を計測し、スタンドからはどよめきを通り越して笑いが起きていた。2回に甘く入ったスライダーをライトスタンドに運ばれて1点を失ったものの、次の打者には自己最速を更新する154キロを連続でマークしている。

 これまでの高校2年生で150キロを超えた投手となると甲子園大会では安楽智大(楽天)の155キロ、田中将大(ヤンキース)と大谷の150キロがあり、今年のドラフト候補では田中法彦(菰野)は2年の秋に150キロ、佐々木と同学年の及川雅貴(横浜)もこの春に152キロをマークしている。だが、彼らの場合は150キロを超えるスピードは1試合に数球程度であり、アベレージの球速は140キロ台中盤にとどまっている。

 一方、佐々木はこの試合で初回から6回まで毎回150キロ以上を計測し、終盤の8回にも2球マークしているのだ。自分が確認できた145キロ未満のストレートはわずかに2球。ここまで高いアベレージのスピードをマークできる投手は大学生や社会人でも珍しい。この部分だけでも佐々木が只者ではないことが分かるだろう。

 佐々木の魅力はスピードだけではない。そのフォーム、変化球も一級品なのだ。普通は速いボールを投げようとすると反動をつける動きが大きくなったり、上半身に力みが生じて体が左右に振られたりすることが多い。田中将大の高校時代は今よりも明らかに左右の動きが大きく、安楽は重心が上下動する動きが激しかった。しかし、佐々木は左足を高く上げても姿勢が崩れず、バランスよく無理のないフォームで速いボールを投げることができるのだ。この点は過去の好投手と比べて最も大きい部分である。

 変化球はスライダーとフォークが中心だがどちらもしっかり腕を振って投げられており、そのキレは申し分ない。ちなみにフォークは公式戦で使うのはこの試合が初めてということだったが、そんなことを全く感じさせない完成度だった。コントロールに関してはこの日も6四球を与えており少し課題は残るが、大きく制球を乱すような場面はなく、際どいボールが外れるケースが多かったため致命的な欠点ではないように見える。

 以上のことからも高校2年夏の時点では“史上最高レベル”の投手であることは間違いない。このまま故障することなく順調に成長すれば、来年には160キロをマークして大谷レベルの投手になる可能性も十分にあるだろう。ちなみに、大船渡は1984年に春夏連続で甲子園に出場しており、春はベスト4に進出して『大船渡旋風』と言われたこともあるが、決して強豪校というわけではない。岩手の県立高校からこのレベルの投手が出現することは驚きであり、改めて日本の野球の裾野の広さを感じずにはいられない。

 大谷がメジャーに渡り、夏の高校野球が100回大会を迎えた年に出現した“平成最後の怪物”佐々木朗希。今後もその動向からは目が離せない。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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