大船渡・佐々木朗希(撮影・西尾典文)
大船渡・佐々木朗希(撮影・西尾典文)

 7月10日、岩手県営野球場で新たな怪物が誕生した。その名は大船渡高校の2年生右腕、佐々木朗希。シード校で優勝候補の一角にも挙げられていた盛岡三を相手に最速154キロをマークする圧巻のピッチングで完投勝利を飾ったのだ。

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 このピッチングに各スポーツ新聞も色めき立った。

大船渡・佐々木朗希、衝撃の自己新154キロ(日刊スポーツ)

“大谷超え”の怪腕現る!(スポーツ報知)

「大谷二世」自己最速154キロ(スポーツニッポン)

大船渡・佐々木、出た154キロ!160キロ超え目指す(サンケイスポーツ)

 189㎝の長身で岩手県出身となれば大谷翔平(エンゼルス)を引き合いに出すのは当然だろう。しかし、佐々木は本当にそれほどの器なのだろうか。現地でのピッチングを見た印象と、過去に怪物と呼ばれた投手の下級生時代と比較しながら検証してみた。

 佐々木の名前が評判になったのは昨年の夏。岩手大会2回戦の盛岡北戦でリリーフで登板すると、いきなり147キロをマークして見せたのだ。だが、秋は成長痛に悩まされて公式戦の登板はゼロ。春の県大会では初戦で153キロをマークしたものの、2対3で盛岡中央に敗れ、多くの人の目に留まることはなかった。そのような事情もあり、この夏の初戦が本格的なデビューと言える状況だったのだ。

 改めて7月10日のピッチングを振り返ると、9回を投げて被安打4、11奪三振、6四死球、2失点(1自責点)という結果である。しかし、その数字以上にピッチングのインパクトは大きかった。まず、スター誕生の予兆があったのは試合前のキャッチボールだ。佐々木はフェンスに最も近い列でセンターからライトに向かって投げていたのだが、そのボールの軌道は他の選手とは明らかに異なっていたのだ。

 全身を大きく使い、ピッチングフォームを確かめるように腕を振ると、右手から放たれたボールは40メートルほどの距離を一直線で相手に向かって飛んでいっているように見えた。かつて江川卓(元巨人)が選抜に出場した時にその遠投の軌道を見た北陽ナインが言葉を失ったという逸話があるが、佐々木のキャッチボールも将来そのようなエピソードとして残るくらいの迫力だった。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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佐々木の凄さはどこか?