7本のクスノキは1924年(大正13年)に国の天然記念物に指定されており、1960年(昭和35年)に球場が完成したときにも伐採されることなく、クスノキ群を残す形で外野スタンドが設置された歴史がある。

 柳田は、その「クスノキ群」の中へ消えていく強烈な一打をぶち込みたいというのだ。

 今季、ソフトバンクは4月14日のロッテ戦を藤崎台球場で開催する予定だった。狙っていたのは、もちろん“クスノキ弾”だったが、残念ながら雨天中止。つまり、悲願達成のチャンスが再び巡ってきたというわけだ。2016年4月に発生、大きな被害をもたらした地震から2年。「とにかく、熊本の皆さんに、元気とパワーを与えたい」と語る柳田にとって、球宴での規格外の一発宣言は熊本への「エール」でもある。

 そして、もう1つの誓いがある。「次こそは打ちたい」という中日・松坂大輔との再戦だ。

 6月8日の中日戦(ナゴヤドーム)で、昨季まで3年間、ソフトバンクでの僚友だった先輩・松坂が先発マウンドに上がった。

 1998年、横浜高のエースとして、甲子園で春夏連覇を果たした松坂より柳田は8年年下。広島で生まれ育った10歳の柳田少年は「松坂さんを見て甲子園に出たいと思った。スーパースターです。かっこいい」。その憧れの人との対戦は、2つの三振と1四球。カットボールとツーシームを駆使して、打者の手元で微妙に変化させる投球術の前に、柳田のバットは空を切った。

「ケチョンケチョンにやられました。対戦したら打ちたいッス」

 その松坂も、セ・リーグの先発投手部門で2位の巨人・菅野智之に15万票近く引き離す、獲得総数39万4704票でファン投票1位に輝いた。日本球界復帰4年目。メジャー時代の右肘、帰国後の右肩の手術の影響からソフトバンクでの3年間では1軍登板が1試合だけ。長いブランクを経て、復活を遂げた今季は、ここまで3勝。6月17日の西武戦(メットライフドーム)で登板直前に背中を捻挫。以来、実戦マウンドからは遠ざかっているが、順調な回復ぶりで球宴での復帰が濃厚。第1戦の京セラドーム大阪での先発が有力視されている。

「松坂」対「柳田」。三振か本塁打か。力と力の真っ向勝負が期待される。

「子どもたちに、プロ野球の選手になりたいと思ってもらいたい。それが僕らのやるべきことかなと思います。いい選手ばっかりなので、しっかりといい準備をして、あとはすべてを天に任せます」

 そう意気込む柳田は、7月8日のオリックス戦(京セラドーム大阪)で本塁打を放ち、2年連続20本をマーク。今季74試合目での到達は143試合のシーズンに換算すると、約39本ペースだ。同10日の前半戦終了時点で打率.347。盗塁16もシーズン換算なら約31。2015年以来となる、3割、30本、30盗塁の「トリプル3」も完全に射程圏に入っている。

 大阪で松坂にお返しをして、熊本ではクスノキ林へぶち込む。柳田なら、いとも簡単にやれそうな気がする。球宴の夢舞台でも、この男のフルスイングから目が離せない。(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス、中日、ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。