また、欧州圏内であっても高額移籍金に見合った活躍ができなかった選手も当然のように存在する。2009年夏にACミランからレアル・マドリードに移籍したブラジル代表MFカカは、6500万ユーロ(約89億円)の移籍金とされた。07年にはバロンドールも獲得し、ミランでのプレーを望んでいたカカだが、ミランは財政難に陥っていたため、移籍金の収入を必要としていた。こうした事情もあってのレアル行きだったが、負傷離脱やジョゼ・モウリーニョ監督からの信頼を得られなかったことなど、不運も重なり全く本領は発揮できなかった。4シーズンを経てレアルを去ることになるのだが、最後は地元紙が実施したインタビューで78パーセントのサポーターが「放出すべき」と回答する事態になっていた。

 先日、引退を表明したカカは、インタビューにおいて、このレアル移籍を「失敗だった」と振り返っている。その一方で、確執があったとされるモウリーニョ監督については「レアルを去ってしばらくしてから、彼が僕のことを素晴らしいプロフェッショナリズムの持ち主と話してくれたことを聞いた」と、外から感じられたほどの対立関係はなかったことも明らかになっている。しかし、レアルにとってもカカにとっても、幸せとはいえない関係になってしまった。

 また、わずか1年間で2つの高額移籍金を巻き起こしたケースもある。大型補強の目立つマンチェスター・Uは14年夏にレアルからアルゼンチン代表MFアンヘル・ディ・マリアを5970万ポンド(約103億円)で獲得したが、チームにフィットできなかった彼はわずか1年で退団。パリ・サンジェルマン(PSG)に6300万ユーロ(約86億円)で移籍している。もちろん、1年分の働きはあるにしても、マンチェスター・Uは約17億円の損を出した格好だ。それに加え、この1年間で2つのクラブが支払った移籍金の合計は日本円にして200億円近くになる。一人の選手の移籍により、これだけの金額が動くという近代サッカーを象徴する出来事になったと言えるだろう。

 また、今夏の動向次第では厳しい批判を浴びそうなのが、2年前にマンチェスター・Uが獲得したフランス代表MFポール・ポグバだろう。モウリーニョ監督からの信頼を完全に獲得しているとはいえないポグバは、ユベントスから当時の世界最高額の移籍金となる1億500万ユーロ(約120億円)で加入している。退団するとなった時に、今夏の移籍市場でどれほどの値が付くのかによって評価は変わるが、少なくともこの2年間のプレーが100億円を超える価値を生んだとは考えられないだろう。

 6月には世界中のサッカー選手が“ショーウインドー”に並ぶという見方もされるワールドカップが開幕する。そこで活躍した選手には、期待も込みで超高額の投資がされることになるだろう。その話題は恐らく夏のシーズンオフでの中心になるが、そうした選手たちが金額に見合ったプレーをするのかどうかも、厳しい目で観察され続けることになる。