斉藤章佳先生(右奥)とにのみやさおりさん(左手前)
斉藤章佳先生(右奥)とにのみやさおりさん(左手前)
にのみやさおりさんの著書
にのみやさおりさんの著書

 書籍『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)には、性犯罪事件の裁判で読み上げられる、加害者から被害者への手紙の典型例が掲載されている。痴漢、盗撮、強制わいせつ、強姦と種類を問わず、こうした手紙は性犯罪事件の刑事裁判にはつきものである。だが、これが見事なまでに心に響かない。真の謝罪の意も贖罪の思いも聞き取れないケースがほとんどだから上滑りして聞こえるのだ、と同書の著者・斉藤章佳さんは指摘する。斉藤さんは社会福祉士、精神保健福祉士として東京都大田区の大森榎本クリニックで、性犯罪加害者を対象とした再犯防止プログラムに取り組んでいる。

 形骸化しているどころか、被害者感情を逆なでするような謝罪文の読み上げなど、やめてしまえばいい。にもかかわらず続けられている背景には、加害者は「反省すべき」「謝罪すべき」という社会からのプレッシャーがある。だが、被害者は謝罪を求めているのだろうか。

「私は、自分に加害した本人からの謝罪を受けたことがあります」

 と語るのは、写真家のにのみやさをりさん。20数年前に、当時の上司からの性暴力被害に遭った。その後、仕事をつづけられなくなり、現在に至るまでPTSDに悩まされつづけている。

にのみやさをりさん(以下、にのみや)「加害者に謝罪してほしい、というのは多くの被害者が考えることだと思います。私は被害から5、6年経ったころに直接、話をする場を設けたことがあり、その場で加害者は土下座せんばかりの勢いで謝罪をしました。でも、その言葉も態度もすべて私のなかを素通りしていきました。むなしかったですね。そこに、心がないから」

 それは、加害者が自分のふるった性暴力による影響を知らないがゆえだと、にのみやさんは考える。

にのみや「被害者のその後を知らずに、自分が加害をしたその瞬間のことだけを謝っていると感じました。でも、私は被害そのものよりも、その後、後遺症とともに生きなければならなくなったことがつらかった。そのことについての謝罪を聞きたかったんです。加害者に被害への理解や謝罪の気持ちを求めても、徒労に終わるだけだと感じました。私は本当に謝罪がほしかったのではなく、『ずっとしんどいんだよ』『ここまで生き延びるのが、どれほど大変だったか』と訴えたかったのだと、いまならわかります」

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