斉藤「被害者に『騒ぐほどのことではないのに』『あなたさえ我慢すればよかった』といって加害者意識を刷り込むことは、絶対に許されないことです。にのみやさんの訴えは、会社という組織のなかで迷惑だと受け取られましたが、社会全体にもその傾向がありますよね。その背景に、女性は男性の要求や性欲を受け入れて当然だという前提があると私は思います。訴え出た被害者は、その前提を破ったとみなされるんです」

 被害者意識を募らせ、時として社会から守られることもある加害者。自分が悪かったと自身を責めつづけ、孤立していく被害者。それを当事者ひとりひとりの問題だけに矮小化してはいけない。私たちは、こうした現象を生む社会の構造に目を向ける必要がある。

斉藤「性暴力、性犯罪には、加害者と被害者がいて、両者は決して交わりません。でも、加害者と被害者が分断されればされるほど、加害者は加害行為の克服から遠ざかります。ゆくゆくは社会から孤立し、必然的に再犯リスクも高まります。世界の潮流では、事件後に加害者と被害者が第三者である専門家の仲介のもと対話し、理解しあう“修復的司法”が注目されはじめています。が、性犯罪にこれを適用するのは非常にむずかしいですね」

 斉藤さんのような、加害者と関わりのある人物にも接したくないと思う被害者は多い。もし自分に加害した当人につながったらという恐怖はぬぐえない。にもかかわらず、にのみやさんは斉藤さんが携わる性犯罪再犯防止プログラムで、加害者たちに被害の実態を語りかけている。伝えたいことがあるからこそだ。

斉藤「にのみやさんは加害者に対して、『朝起きてから寝るまでのあいだ、1分でいいから被害者について思い出すことを習慣にしてほしい』といわれましたね。自分の加害行為を知らず知らずなかったことにしようとする彼らにとって、あれは強いメッセージでした」

にのみや「犯した罪は、なかったことにはなりませんよね。でも彼らがそうしたい気持ちもわかります。そのほうが生きていきやすいから。一方で、いままで私が出会ってきた被害者の人たちも、私自身も、長く長く苦しんでいます。それが一生つづくかもしれない。加害者には時効があるけど、被害者には時効はありません。それだけのことをしたのだから、あっさり自分のしたことをなかったことにしたり、被害者を不在にしたりするのではなく、覚えていてほしいんです。たとえ1日1分だけでも」

 くり返すが、被害者と加害者は決して交わらない。しかし、それをいいことに加害者が自身のしたことへの責任を放棄するようでは、被害者はもちろんのこと、再犯リスクを考えると社会にとっても何らプラスにはならない。だからにのみやさんは語りかける。斉藤さんは、それを彼らの再犯防止に活かす。ふたりの活動が目に見えて実を結ぶまでには、長い時間がかかるはずだ。けれど、性暴力、性犯罪を1件でも減らすための確実な方法のひとつとなることは間違いないだろう。(取材・文/ライター・三浦ゆえ)